アラン・ドロン一家、日本人女性巡り法廷闘争
Japan In-depth / 2024年1月8日 21時27分
父親との40年間にわたる確執
アントニー自身、自伝的著書『犬と狼の間』の中で、「幼少期に両親に拒絶され、捨てられました」と書いており心の傷になっていることがうかがいしれる。アランとナタリーが別居したとき、アントニーは4歳だった。4歳といえばまだまだ親に甘えたい年齢だ。しかし母親は離婚の原因にもなった女優の道を選んだ結果、息子と過ごす時間はほとんどなくなった。
ドロンといえば息子を男らしくし強く、どんな苦難にも負けない男に育てようとするあまり、アントニーに大変厳しい態度をとったのだ。例えば、アントニーを犬と一緒に閉じ込めたり、夜のドゥーシー公園を強制的に散歩させたりして恐怖心を克服するよういった。時には食事のマナーがなっていないとムチで打ったという。多少アランの味方をするとすれば、この時代のフランスは教室にもムチが設置されており、子供をしつけるのにムチを使うのは現代社会よりは普通のことだったのだ。しかも初めてできた子供であるアントニーの境遇は、アラン自身の生い立ちとも重なる点がある。アランも4歳で両親が離婚し、母親の再婚相手の義父と不仲であり、母親が妹だけをかわいがったため、アランは孤独な少年時代を送っている。アランはこの自分の経験からも息子のアントニーに強く生きてほしかったのかもしれない。しかし子供の立場からみればただの地獄の日々である。
そんな子供時代の影響か思春期に入るとアントニーはかなりの反抗期を迎えることになる。ドロンは児童裁判官の前で息子を絞め殺しそうになり、ナタリーが二人を引き離したこともあるという。18歳のときには車を盗んだり、武器を転売しようとして逮捕され1カ月間投獄された。しかし19歳の時、アントニーは起業する。フランスで一番若いCEOの誕生だ。だがそこでもまたアランともめることになる。ブランド名に「A. Delon」を使おうとしたからだ。アランもアントニーも、イニシャルにすると同じAになるのだが、アランにとってはそれは都合が悪く使うことを禁じた。この結果、訴訟などにも発展しブランドも存続できなくなり、二人の間に大きな亀裂を残したのだ。その後、アントニーは俳優としても活躍を始めるが、フランス映画界では父アランの存在が大きく、アントニーは才能ある俳優として認められずにこちらの世界でもさんざん苦労した。
しかしながら、こういった右往左往した人生を送りながらもアントニーは彼なりに父親を愛している。父親との抗争でつぶれたブランドも立て直した。2017年にアントニーはその名前に象徴的な年代を付け加え「Anthony Delon 1985」に変更。そしてレザージャケットなどに日本のことわざ「七転び八起き」を日本語でプリントした。文字通り、転んでは起きがってきた自身の人生の哲学をこのことわざで表現したのだろう。
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