賃金・物価の好循環―その実現には生産性の改善が必要―
Japan In-depth / 2024年1月20日 14時10分
金融市場で決まる為替レートの短期的な変動の影響を避けるため、購買力平価の為替レートを使うこともある。購買力平価の為替レートとは、ある時点を起点に、二か国の消費者物価の変動を相殺するよう為替レートが動いたと仮定した場合の為替レートである。しかし、これでもその国に暮らす人の幸せ度合いの比較がうまくいくかというと、そうとは限らない。
米国のように人口に比して広大な居住可能な土地があり、食糧やエネルギーの自給率が高い経済での家計消費のあり方と、日本のように居住可能面積が狭く、輸入に頼るところ大の経済のそれとは随分違う。日米の消費者物価で購買力平価を考えると、そうした家計消費の根本的なあり方の違いを除外して、日米の家計が同じような消費パターンを持っていることを暗黙裡に仮定した比較になってしまう。具体例をあげれば、米国ではガソリン価格はそもそも日本よりはるかに低いのである。
こうしてみてくると、生産性の国際比較がいかに難しいかがみえてくる。そして、現在なされている国際比較がかなり表層的であるようにも思えないだろうか。日本の生産性の改善を、生産年齢人口(15~64歳)一人が実質的に生む付加価値でみると、長期的には、米国よりは劣るが他のG7諸国と比べて遜色ないという分析結果もある。もちろん、日本経済のパフォーマンスにおいて改善すべき点は多々ある。しかし、なんでも全部駄目ということではないのではないだろうか。
■物価・生産性・賃金
今後、日本経済を持続的に良くしていくためには、現状をフェアに評価した上で、これからさらにどうしていくかを考えるべきだ。生産性についても、本来、以上で議論してきたように、ミクロに分け入った丁寧な分析が必要だ。そして、それを前提に、「賃金と物価の好循環」にどう生産性のピースを入れて行けばよいかを考える必要がある。その循環の順番は、物価→生産性→賃金かもしれない。
賃金と物価の好循環という、ある種、前向きな表現が出てきたのも、マイルドなデフレに繰り返し陥るような経済から、ある程度インフレが定着しそうな経済に変わってきたからかもしれない。では、どうしてインフレ気味の経済になるとそうした前向きな話になるのか。ついこの前までは、何故もっと金融緩和ができないのかという話ばかりがあちこちで聞かれていたのにである。
異次元緩和で期待に働き掛け、本当のインフレを起こすというストーリーは、どうもうまくいかなかったことがだんだん明らかになってきた。他方、輸入インフレという日本経済には迷惑なものであっても、インフレ気味になって経済に元気が出てきたのだとすれば、それはどういうことなのか。この点の理解抜きに、ここからの賃金と物価の好循環を言うのでは、考えの整理が不十分ではないか。
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