医師の働き方改革
Japan In-depth / 2024年1月24日 9時47分
需要の拡大が望めないのだから、大学病院は生き残るために、コストを下げるしかない。実質的に退職できない後期研修医は、その対象になりやすい。東大病院の場合、1年次の後期研修医(専攻研修医)の時給は1,807円で、1週間の勤務が 31 時間内の非常勤雇用だ。40時間を超えないのは、常勤扱い、36協定の締結などの面倒を避けるためだろう。
後期研修制度は問題だらけだ。違法な可能性すらある。それは、専門医制度を一般社団法人日本専門医機構が運営しているからだ。大学教授が仕切る学会組織が統一団体を作り、お手盛りの運営を続ける。これは独占禁止法違反に抵触する可能性があるが、現実には、本来監視すべき厚労省が年間約1億円の補助金をだすなど後押しし、「お墨付き」を与えている。職業選択、居住の自由を侵害する制度であり、厚労省が関わるなら、国会での立法措置が必要だが、そのような動きはないし、そのことを誰も批判しない。
こんなことを続けていると、わが国の医療はダメになる。それは、我が国で、今後、需要が高まるのは後期高齢者医療だからだ。75才以上の後期高齢者は、2018年には1849万人だったが、2022年には1937万人に増加している。今後も増え続けるだろう。この世代が求めるのは、プライマリケア、在宅医療、終末期医療などだ。いずれも地域での医療で、大学病院が苦手とするものだ。
大学病院で家庭医を育成して地域に派遣すればいいという人がいるが、医学部の教育カリキュラムならともかく、大学卒業後も30歳位まで、家庭医も専門医だと主張して、専門医研修の一環として縛り付けることには反対だ。地域医療のニーズは多様であり、若手医師は多様なニーズに自らを適合させることで成長していくからだ。地域医療を担う医師は、大学ではなく、地域で育つはずだ。実は、このような医師こそ能登地震でもっとも熱望された。能登半島の福祉避難所で診療活動にあたった医師は、このような人が多い。
高齢化の進行とともに、日本の医療提供体制は、大病院中心からプライマリケアや慢性期のケア中心に移行しなければならない。これが、災害対策にも貢献する。その障壁だが、従来型の大学病院を中心とした医療提供体制だ。日本の医療提供体制の議論で欠けているのは、患者や実際に現場で働く若手医師の声だ。いまこそ、日本の医療の在り方をボトムアップで議論しなければならない。
トップ写真:イメージ(本文とは直接関係ありません)出典:recep-bg / Getty Images
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