「幻の名戦車」T-14とは 3年目に入ったロシア・ウクライナ紛争 その3
Japan In-depth / 2024年3月21日 18時40分
そうなった理由について、やはり価格がネックになったものと見る向きが多い。
2015年に発表された当初、1輛当たりの価格は370万ドル(当時のレートで4億4000万円ほど)とされていた。しかしながら、非常に複雑なシステムを搭載しており、しかもそのシステムにはフランスやイスラエルから購入していた電子機器が不可欠だという事情から、そんなに安上がりなはずはない、と見る向きが多かったのである。事実、最新の報道によれば、実際の製造コストは1輛当たり9億円を超すらしい。
ちなみにM1エイブラムス戦車の初期型は1輛およそ4億円で、現在の世界を見渡しても、9億円を超える戦車となると、自衛隊の10式戦車(10億円以上!)など、数えるほどしかない。
同じく2015年時点の構想では、2020年までに2300輛をロシア軍に納入するという構想であったが、この数字は最初から疑問視されていた。
IMF(国際通貨基金)によると、今年1月31日の時点で、ロシアの名目GDPは2兆2442億ドルで世界8位だが、これは前にも述べた通り、軍需インフレが寄与しているので、2010年代は低迷していた。
しかも2014年のクリミア併合により、経済制裁を受けたために、肝心の電子部品が調達できなくなってしまった。これがロシア経済を低迷させた一因であることは言うまでもない。
いずれにせよウクライナに侵攻した時点で、ロシア軍が保有するT-14は20輛にとどまっており、これではゲームチェンジャーの役割など期待できない。
ソ連邦も、常に新しいアイデアを実現し、戦車開発の歴史を塗り替えてきたが、結果的には戦力面で西側を凌駕することはできなかった。
その理由は、意外に思われるかも知れないが、かの国が民生市場を事実上持たなかったからだとされる。
戦車を例に取ると、たしかに主砲の威力などでは、ソ連邦が常にトップランナーであったが、弾道計算用のコンピューターや夜間暗視装置などでは、常に西側の後塵を拝していた。 これは非常に分かりやすい話で、大砲を大砲以外の用途に用いることはまずあり得ないが、コンピューターやカメラはそうではない。
一方、自衛隊の74式戦車にはエアコンがなかったが、ソ連邦の戦車は標準装備であった。ただし、日本製カー・エアコンの無許可コピー品だと推定されている。
いずれも端的な例で、過去には軍事目的で開発され進化した技術が、民生市場にフィードバックされることが多かったのだが、第二次大戦後その関係が逆転し、民生用の技術が兵器にも生かされるというようになってきたわけだ。
ロシア軍が今に至るも「質より量」の発想で、ウクライナを圧倒できると考えているとすれば(前回述べたように、その通りになる可能性は否定できないが)、かつてのソ連邦が犯した過ちからなにも学んでない、と言われても仕方ないのではあるまいか。
トップ写真:トヴェルスカヤ通りで行われた戦勝記念日のパレードの夜のリハーサルに参加するロシアのT-14アルマータ戦車(2022年5月4日 ロシア・モスクワ)出典:Oleg Nikishin/Getty Images
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