折れた絆ー親子の闇
Japan In-depth / 2024年4月21日 17時35分
原田文植(相馬中央病院内科)
【まとめ】
・警察から患者が変死、と連絡。亡くなった男性患者は息子と二人暮らし。
・父親の死体には無数の打撲傷と多発ろっ骨骨折が。父親から息子へのDVが浮上。
・DV被害者へのサポートや発達障害を抱える人々への理解が一層必要。
警察から患者が変死したと連絡が入った。最後に診療を行った3日後だ。診療ミス?見落とし?カルテを見直した。
カルテの記載にあきらかな不備はなかったように思う。しかし、前回入院時の頭部MR検査で「慢性硬膜下血腫」の所見があった。入院中経過観察していたが、症状にあまり変化はなかった。慢性硬膜下血腫は、発症数日経過した後に神経症状となって現れることもある。しかし、命に関わることは滅多にない。突然死の原因になったとは考えにくい。受診当日のことははっきり憶えている。カルテの記載内容と記憶とそれほど差はなかった。患者は非常に印象的な存在だった。正確に言えば、患者親子は・・・
亡くなった男性患者(69歳)はこれまで何度も入退院を繰り返していた。最後に受診した日は、前回入退院後2週間経過したばかりだった。患者は息子と二人暮らし。最後の受診当日は、息子が操作する車いすで来院した。退院時より明らかに痩せ、消耗した姿に
(入院させた方がいいかもしれない)
そう頭をよぎったが、躊躇した。その親子は病院内で評判が悪かったからだ。「食欲不振」が原因で入院してきたのに、入院当日からよく食べる(どこが食欲不振なの?)。急性期の高齢者が多い病棟で、この男性患者は比較的若くて軽症とみなされた。常に、スタッフからの(早く退院させてくれ)というプレッシャーがかかっていた。また経済的に困窮していたようで未払いが積み重なっていた。そして、何より問題だったのが、患者の息子だ。39歳の息子は、ナースステーションでしばしば大声を出してナースたちを威嚇した。
父親の看護や対応に納得できないのか、大声で怒鳴る「クセ」があった。いくら父親想いの表現とはいえ、40前後の男性が大声を出すのはよくない。何度か、息子と面談し、諭した。「ナースが怖がっているじゃないか!それは絶対にしてはいけない」そう伝えると、息子は理解してくれた。少なくとも私にはそう感じた。
息子は介護職員だ。以前、彼と施設で一緒に働いた経験のあるスタッフによると、独り言も多く「変わり者」だったそうだ。なんらかの発達障害があるとも噂されていた。
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