折れた絆ー親子の闇
Japan In-depth / 2024年4月21日 17時35分
以上のような状況だったので、入院させるには、ナースやスタッフを説得しなければならない。最後の診療時、とにかく脱水改善目的で外来で点滴することにした。点滴後、親子はすぐに帰宅した。すんなり帰宅してくれたことに、正直ホッとした。
その3日後に警察から患者死亡の連絡が入ったのだ。
当日の事情をしっかり説明した。言い訳がましくならないよう、できるだけ客観性のある事実を伝えた。警察も「ご協力ありがとうございました」と丁寧にお礼を言ってきた。唯一の心配は、親想いの息子だ。父親の死を受け入れることはできるだろうか?父一人子一人の家庭で無二の父親が他界したのだから、ショックは大きいはずだ。サポートしてくれる友人や知人はいるのだろうか?心配しながら月日は流れた。
一か月後、福島県警から未解決事件担当の刑事が当院にやってきた。再度、最終診療時の状況をインタビューされた。少し記憶も薄れてきていたので、脚色のないよう注意深く応対した。知らないことは知らないと。
「父親の死体には無数の打撲傷と多発ろっ骨骨折がありました。診察時にそのような所見はありましたか?」と質問された。私は診療時必ず聴診器を使用する。だから必ず胸部を診る。そのようなものがあれば気づいているはずだ。そう答えた。刑事は息子のDVによる殺害を疑っているようだ。「まさか!」と思うと同時にショックだった。自分には「親想い」の息子と映っていたからだ。
刑事は既に他のナースにも聴取していたようで、息子の病院での悪態などについても情報を入手していた。「たしかに評判は良くない息子でした。スタッフは偏見が入るとその方向で受け答えするかもしれません。少なくとも私と息子との関係は悪くはなかったし、仮に彼が起こした結果であったとしても、意図的であったとは考えたくないですね」と本音だけ話しておいた。
数日後、逮捕され連行される息子の姿がテレビや新聞に出た。病院内でもショックは広がり、一部のスタッフは「怖いね。私たちが殺されなくてよかったね」などと言う人もいた。だが、自分の心中は複雑だった。
以前息子の同僚だったスタッフによると、仕事ぶりは真面目だったそうだ。独り言が多かったが、大声を出すようなことは記憶にないと。悪態をつくのは父親絡みのときだけだったのかもしれない。
息子は複雑な背景を持っていた。警察の調査で父親からのDVが浮かび上がった。狭い地域社会なので、そのような噂は以前同僚だったスタッフも耳にしていたようだ。幼少時に父親からDVを受けていたと。発達障害気味な息子に苛立った父親がDVをしたのか、DVが原因で発達障害になったのかは不明だ。因果は常に逆転するし、他にも様々な要因が重なり事件を引き起こしたのだろう。幼少時にDVを受けていた子供は成人後も通常の社会生活を送ることが困難になるという報告はある[1]。
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