「知の巨人」横山禎徳氏を悼む
Japan In-depth / 2024年5月25日 11時13分
横山氏が、当時の米国を評するときに強調するのは「豊か」だったことだ。1969年の映画『イージー・ライダー』でピーター・フォンダとデニス・ホッパーが演じる二人の主人公のような人物は、ボストンには大勢いたらしい。「あれでも食えるのが米国の豊かさ」と説明した。
その後、横山氏は建築家として、前川國男事務所に就職する。前川氏は、ル・コルビュジエなどの元で学び、戦後のわが国の建築界をリードした人物だ。この事務所からは、丹下健三など多くの人物が巣立っている。
横山氏は、建築家としての修行の日々をしばしば語ってくれた。そして、刺激を受けたルイス・カーン、イオ・ミン・ペイ、フランク・ゲーリーなどの建築の写真を、勉強会で繰り返し紹介した。一流の人物に囲まれ、楽しい日々を送ったようだ。ところが、程なく、建築家としての道を諦める。「建築は才能の世界。私にはなかった」と語る。
順風満帆な横山氏にとって、初めての挫折だったのだろう。ただ、この経験は無駄ではなかった。東京大学の学生時代から、米国留学、前川事務所勤務を経て、彼の頭の中には「デザイン」という考え方の枠組みが出来上がり、のちの「社会システムデザイン」へと繋がっていくからだ。
「社会システムデザイン」という考え方は、私にとって新鮮だった。人体は複雑系だ。介入がどういう結果を呼ぶかはやってみなければわからない。同じ薬を使っても、状態が改善する人も、副作用で亡くなる人もいる。臨床医は、人体をデザインしようとは思わない。やれることは「臨床試験」として、経過を記録するだけだ。
横山氏と知り合って以降、私は東京大学医科学研究所の研究室や、医療ガバナンス研究所の運営に関わった。悪循環・良循環に着目し、組織をデザインするという横山氏の教えは大いに参考になった。
話を横山氏に戻そう。建築家を諦めた後、横山氏は、1975年にマッキンゼーに入社する。そこで影響を受けたのは、1950〜67年までマネージング・ディレクターを務めたマービン・バウアーだ。マッキンゼー中興の祖として伝説的な人物で、コンサルタントの世界に、医師・弁護士・聖職者の世界で確立している「古典的プロフェッショナリズム」を導
入した。コンサルタントは、独自のスキルを顧客のために使う。顧客とコンサルタントには、情報の非対称が存在するため、強い職業規律を持たなければならない。そして、報酬は顧客からもらうというものだ。
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