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「知の巨人」横山禎徳氏を悼む

Japan In-depth / 2024年5月25日 11時13分

横山氏が学んだハーバード大学は、ロー・スクールやメディカル・スクールなど、プロフェッショナル育成を目的とした職業訓練学校から始まっている。学問を追究する法学部や医学部ではない。ビジネス・スクールやデザイン・スクールも、その延長線上にある。





このような学校は、近代国家が誕生する以前に始まっている。プロフェッショナリズムを貫くことは、時に国家との利益相反になる。医療界で有名なのはナチスの人体実験だ。戦後、担当した医師は処刑された。組織の命令に従ったという言い訳は通用しなかった。





我が国は、コロナ禍でPCR検査を抑制したが、医療界から、「国家の都合のために患者の権利を抑制するのは怪しからん」という意見がでることはなかった。第二次世界大戦での陸軍防疫給水部隊(731部隊)の蛮行も独自に総括していない。





この差は歴史に負う所が大きいのだろう。欧米のプロフェッショナルの世界では、長い歴史の間に、世俗権力や国家権力との軋轢を数多く経験し、独自の規範を確立したのだ。我が国では、明治政府が欧米に倣い、東京大学を設置したが、仕組みだけを導入し、精神は受け入れなかったようだ。





私は、横山氏から教えて貰うまで、医師のプロフェッショナリズムについて考えたことがなかった。私が医学を学んだ東京大学医学部では「診療と研究の両立」は強調されるが、このことについて議論されることはない。





ところが、この問題について関心を抱くようになると、英国の臨床医学誌『ランセット』などが頻回に論考していることが分かるようになった。これまで、私は文字面だけを追いかけ、論考の主旨を理解できていなかったことを痛感した。





生前、遠藤周作がノーベル賞候補に上がったのも、著作『海と毒薬』や『沈黙』が、患者・信徒と組織の間で喘ぐ医師や聖職者を取り上げたからだろう。『沈黙』は、『沈黙-サイレンス-』というタイトルで、2016年にマーティン・スコセッシ監督が映画化している。遠藤周作の祖先は鳥取藩の御典医で、自身はクリスチャンだ。この問題について考える機会が多かったのだろう。





お恥ずかしながら、横山氏に会うまで、私は、「古典的プロフェッショナル」が抱えてきた問題意識を理解できていなかった。横山氏との出会いは、医師としての私のキャリアに大きな影響を与えた。私にとって、横山氏は、経験に裏打ちされた「知の巨人」であった。





横山氏を紹介するなら、これ以外にも、東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム(東大EMP)立ち上げなど、多くの実績がある。このような実績に加えて、私が最後にご紹介したいのは、後進に対して優しく、面倒見がよかったことだ。





横山氏は、しばしば医療ガバナンス研究所にマッキンゼーの後輩を連れてきた。多くの場合、病気の相談だ。後輩やその家族が病を抱えたとき、彼らはまず横山氏に相談するようだ。みなさん、「怖い上司でした」と口を揃えるが、その雰囲気から敬愛していることがよくわかる。厳しいが、温かい人だ。こうやって多くの後進を鍛え上げてきたのだろう。私も、その中の一人だ。心からご冥福を祈りたい。









▲写真 勉強会の光景。多くの若者が集まった(筆者提供)





トップ写真:横山禎徳氏を講師に招いての勉強会の様子(筆者提供)




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