新聞各紙 残念な防衛関連の未検証記事
Japan In-depth / 2024年5月27日 23時0分
つまり詰んでいる話だ。だがそれがどのような工業的な問題か記者は理解できていない。
そもそも5年に1機しか製造できないならば工業ではないし、事業として成立していない。世界中で飛行艇が必要であれば「技術的に圧倒的に高い」民間型も含めて新明和は開発を行い、世界に輸出してくればよかった。それをしていない。また安倍政権時代、政府はUS-2を世界の軍民市場で売り込みを図ったが、一度も成功していない。つまり市場でいらない、と言われたに等しい。US-2事業が新明和の業績の足を引っ張っているといえよう。
新明和工業といえば飛行艇のイメージが大きいが、その売上は2,570億円の中で航空機部門は319億円に過ぎない。売上で最も大きいのは国内市場でトップシェアの特装車部門だ。これはトラックメーカーが製造した車体に取り付ける機能部位を開発・生産である。町中でよくみかける、トラック後部の荷物の昇降をするテールゲートリフターなどで売上の39パーセント、1,005億円を稼いでいる。ついで17パーセントの産業環境システム、の16パーセントのパーキングシステム、航空機部門は次いで、12パーセントで319億円に過ぎない。
US-2以外にもボーイング777や787など海外民間航空機向けの機体コンポーネントも分担製造しており、US-2の売上は小さい。近年では無人機にも手を出している。飛行艇は同社の看板事業だが将来性はない。これに人員や投資のリソースを割くのはメーカーのわがままであり株主の利益もならないだろう。US-2の事業継続は同社のわがまま、あるいは「お気持ち」でしかない。むしろ航空部門を川崎重工なり、三菱重工にでも売却して「本業」に身を入れるべきだろう。(参考:「新明和の主要事業」https://www.shinmaywa.co.jp/ir/investors/main-business.html)
そしてその「お気持ち」は海上自衛隊のリソースも食いつぶしている。飛行艇は海水に頻繁に浸かるし、着水の衝撃が大きいので期待寿命も短く、維持整備費が極めて高い。そして稼働率も低い。更に事故も多い。費用対効果は極めて悪い。実は海上自衛隊内部でもUS-2部隊廃止を唱える声は小さくない。
防衛省幹部は「US-2は、島国の日本にとって命綱のような存在。生産ラインを民間だけで維持できない場合は、防衛生産基盤強化法に基づいて生産ラインを国有化する選択もあるのではないか」と語る。
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