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トランプ狙撃事件をどう読むか 2つの教示

Japan In-depth / 2024年7月23日 11時0分

 


 私は前述の2つの事件が起きたとき、いずれもアメリカにいた。ケネディ暗殺事件当時は留学生だった。だが大学での講義を含め国内のすべての行事が凍結され、残酷な殺戮を徹底して非難する点でアメリカ全体が団結した。あくまで暴力を排する民主主義の根幹が再強調された様子はよく覚えている。


 


レーガン狙撃事の際は私は新聞記者としてワシントンにいて、至近からその後の政治展開をみた。やはり民主主義の大原則から暴力を排する国内の団結が強烈だった。レーガン大統領への支持が一気に高まった。同大統領はソ連共産主義政権の崩壊を導き、アメリカの歴史でも最も人気の高い大統領として名を残した。


 


 それから43年後のトランプ狙撃事件でも、トランプ、バイデン両氏が暴力排除という基本線で融和をみせた。民主党側はこれまでトランプ氏に対して浴びせてきた「民主主義の敵」とか「ファシスト」という過激な言葉のキャンペーンを一時中断すると言明した。共和党側でも一部には「今回の銃撃は民主党側の過剰なトランプ氏攻撃が温床となった」(副大統領候補に指名されたJ・D・バンス上院議員)という声もあるが、当のトランプ氏はバイデン氏のねぎらいに謝意を表明し、指名受諾演説でも民主党批判を和らげた。


 


この融和がどれほど続くかは不明だとしても、今回の事件はこれまでの民主、共和の対立をこれ以上に険悪化させないという合意を浮上させたといえる。この点をさらに進めれば、アメリカ民主主義の根本の機能の健全さにもつながる。だから日本側の一部の「この事件はアメリカの分極をさらに深める」という断定には同意できない。


 


 第二は、この狙撃事件で示されたトランプ前大統領の個人の政治資質である。


 


 銃弾を耳に受けたトランプ氏はまさに九死に一生を得た。弾丸がほんの数センチずれれば、即死だった。まさに奇跡だといえた。トランプ陣営の研究機関「アメリカ第一政策研究所」(AFPI)のブルック・ロリンズ所長はこの奇跡に神への祈りを捧げ、「トランプ氏を実際に救ったのは彼の頭の小さな動きと現場に吹いていた風だった」と述べた。


 


銃弾が発射された瞬間、トランプ氏は演説用に手にした資料をみるため、頭をちょっとだ右下にひねった。そのうえに現場に吹いた風が弾丸の軌道をほんの少しだけ変えた、というのである。


 


 いずれにしても銃撃を受け、みずからかがみ、さらに大統領警護のシークレット・サービス5人ほどに体当たりのように囲まれたトランプ氏はそれでも右の拳をあげて、「私は屈しない」「闘う」と叫び続けた。その顔の右半分は血にまみれていた。しかも自分を車に運ぼうとする警護の要員たちを「待て、待て、待て」と押しとどめて支持者たちへさらに健在の意志を伝えた。自分の命を奪おうとする銃弾を受けた直後の人間の何人が、こうした果敢な態度を取れるだろうか。パニックに襲われ、うずくまったまま、という人も多いだろう。


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