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福島県立大野病院事件とある医学部生

Japan In-depth / 2024年7月28日 9時31分

福島県警は執刀医を業務上過失致死罪容疑で逮捕した。日本の刑事事件の有罪率は99.97%だ。起訴されれば、まず有罪である。ところが、この事件は予想外の展開となった。2008年8月20日、福島地裁は無罪判決を下し、検察も控訴しなかったため、無罪判決が確定したのだ。


地裁判決で無罪が確定した刑事事件は、2010年に大阪地検が控訴を断念した村木厚子厚労省元局長(当時、後の事務次官)の郵便不正事件くらいだろう。この事件は大阪地検が証拠を捏造していたことが判明しており、無罪判決、控訴断念は当然だ。大野病院事件とは、状況は全く違う。


なぜ、大野病院事件は無罪となったのか。それは世論が変わったからだ。当初、世論は逮捕された医師に批判的だった。手錠をかけられ、連行される医師の姿がテレビで報じられ、マスコミは「医療ミス」と糾弾した。


ところが、最終的には、この事件はたった一人で難しい手術を行わざるを得ない日本の地方都市の医療の構造的問題へと認識が変わり、我が国の「医療崩壊」がコンセンサスとなった。


図は日経テレコンを用いて、主要全国紙における「医療崩壊」、「分娩休止」という単語を含む記事数の頻度を、瀧田盛仁医師(東京大学医科学研究所大学院生、当時)が調べたものだ。2006年から「分娩休止」、07年から「医療崩壊」という単語を含む記事が急増していることがわかる。


 









図)主要全国紙における「医療崩壊」報道状況


出典)瀧田盛仁医師調べ


このような世論の転換に大きな役割を果たした番組がある。それは、フジテレビの『とくダネ!』だ。


大野病院事件の後、有志により「周産期医療の崩壊をくい止める会」という任意団体が立ち上がった。ご縁があり、私は事務局を務めたが、この会の関係者からは、「テレビ、特にワイドショーに問題を取り上げてほしい」と要望された。ワイドショーが報じなければ世論は変わらないからだ。


当時、私が知っていた唯一のテレビ関係者は、『とくダネ!』を担当していた宗像孝さんだった。宗像さんは、東京大学在学中に在籍していた運動会(体育会のこと)剣道部の2年先輩だ。


久しぶりに携帯電話をかけ、事情を伝えると「難しい。被害者がいるのに、医師を擁護することは出来ない」と回答された。当時、医師不足は喧伝されておらず、「医師=金持ち」というイメージができあがっていた。医療事故が起きれば、「医療ミス」で医師を断罪するのが常だった。


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