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10式戦車近代を占う 前編

Japan In-depth / 2024年8月1日 23時0分

10式戦車近代を占う 前編




清谷信一(防衛ジャーナリスト)





【まとめ】





・防衛装備庁は陸上自衛隊の10式戦車の能力向上のための情報提供企業の募集を開始。





・我が国では戦車の優先順位は相当低い。





・陸自の規模を縮小し、ネットワーク化やドローンなどの新しい分野への投資を行って他国と同じレベルの部隊を整備すべき。





 





防衛装備庁は2024年6月28日(金)、陸上自衛隊の10式戦車の能力向上のための情報提供企業の募集を開始した。戦後防衛省(防衛庁)は61式、74式、90式と国産戦車を開発、調達してきたが本格的な近代を施したことがなく、陳腐化するに任せてきた。他国では脅威や技術の発展にあわせて近代化するのが当然であり、このようは陳腐化した戦車を使い続けることはありえない話だ。





その点調達開始から14年が経過したとはいえ、10式戦車の近代化を企画したのは進歩といえる。だがその近代化は難しい。それはそもそも運用がフィクションに基づいており、10式に冗長性が欠如しているし、陸幕に戦車の運用能力はないからだ。更に申せば今後10年の世界の第四世代戦車の仕様の動向がまだ不明確だからだ。防衛省と陸幕にまともな近代化ができるか大変疑問である。





そもそも我が国では戦車の優先順位は相当低い。本土に敵の戦車が連隊単位で揚陸してくる状況は、いわゆる防衛三文書でも蓋然性が低いと述べている。最盛期のソ連軍ですらそのような能力はなく、ロシア軍はウクライナ戦で戦力を大きく疲弊させている。中国にしても現状そのような能力はない。そのような状況は既に空海自衛隊、在日米軍が全滅して制空権、制海権を失っている状態である。制空権を奪われた機甲部隊は無力である。だが陸幕は戦車を偏愛しており、他の装備の更新は放置して新型戦車である10式を開発した。





陸幕は機甲戦闘が諸兵科連合で戦うという認識が欠けている。更新されたのは10式戦車だけで、90年前後以降で戦車以外の装甲車両は殆ど近代化も更新もされていない。戦車とともに活動する89式戦闘装甲車や96式120ミリ自走迫撃砲、87式自走対空機関砲などは旧式化にまかせている。これではまるで戦車が大好きな素人の戦車マニアだ。





陸幕は大好きな戦車だけを偏愛しているが、戦車だけで戦闘は勝てないのは、多くの戦訓の示すところだ。まともな軍隊なら戦車の数を減らしてもこれらの装甲車両の近代化を図っているはずだ。





そもそも10式の導入理由は大概いかがわしい。44トンという軽量化を目指したのは重量50トンの90式では北海道以外では使えないから、本土で使える新型戦車が必要だと、財務省を説得する材料にしたからだった。だが軍事的な合理性は存在しない。全国の主要国道の橋梁1万7920カ所の橋梁通過率は10式戦車が84パーセント、50トンの90式が65パーセントになる。62~65トンの海外主力戦車は約40パーセントとされている。だがそうであれば北海道限定、まるで銘菓「白い恋人」のような90式戦車を何故採用したのか。10式に導入された新機軸は重量以外、90式の近代化で可能だった。実際に多くの国では90式と同じ第三世代の戦車を近代化して使い続けている。





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