金正恩に衝撃を与えた北朝鮮の大洪水
Japan In-depth / 2024年8月15日 20時0分
金正恩は、8月8日と9日にも再び被災地を視察した。専用列車前に住民を集め、改造した車両の演説台で演説を行った。演説の中で金正恩は、韓国報道を「われわれが水害を受けた機会を悪用してわが国家のイメージに泥を塗ろうと敵が愚かな企図を続けていることを暴き、敵がつくり上げる捏造資料はわが国家に対する謀略宣伝であり、重大な挑発であり、被害がなく無事である皆さんに対する冒瀆である」(朝鮮中央通信8月10日)と韓国を強く指弾した。金正恩が韓国メディアの報道を自ら否定したのは今回が初めてだが、住民からの非難を恐れての発言と思われる。
その一方で金正恩は、住民懐柔のために、高齢者や幼児など約1万5400人を平壌に避難させる(3ヶ月)方針を明らかにした。この措置は、幼い子どもが家族から引き離される苦痛には何ら配慮しない独善的なものだ。
金正恩は、こうした措置で住民を欺瞞しようとしているが、彼の非人道性は、猛暑にもかかわらず罹災住民を、学校の運動場や空き地などに密集設置した粗末なテントに詰め込んだ行為で示された。そこには電気・水道・空調などのインフラの整備は見られず、医療施設もなかった。映像に映し出された住民の姿は痩せこけ、みすぼらしい衣服でまとわれていた。朝鮮中央TVが紹介される平壌の住民とは全く異なる光景だった。
北朝鮮当局は8月5日、水害復旧戦域に派遣する平壌市党員連隊の集会を持ち、被災地に「白頭山英雄青年突撃隊」(3万名)を送り出した。平安北道の突撃隊(2万名)と合わせて5万名が被災地入りするが、受け入れ体制の整っていない被災地での混乱が予想される。
■ 甚大な軍需工場被害で金正恩にショック走る
金正恩が視察に訪れた鴨緑江下流の平安北道(ピョンアンブクト)がクローズアップされているが、中流の慈江道(チャガンド)、上流の両江道(リャンガンド)も極めて深刻な被害を被った。特に慈江道は、軍需工場と弾薬・武器貯蔵の密集地である。そのほとんどが地下にあるため被害は甚大だった。電力供給も断たれ、工場の稼働は中断した。金正恩が慌てて出動したのは、住民救出の「愛民」を装うためでもあったが、ロシアへの兵器・弾薬供給に支障をきたす軍需工場被害を把握することが主目的だった。
韓国デイリーNKは、一般人が容易に立ち入れない軍需工業地域である慈江道に派遣された朝鮮人民軍の軍人A氏(階級不明)にインタビューを行い、北朝鮮の国営メディアが触れない、被害の実相を伝えた。
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