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「恋人の落馬事故とアンナの不倫」文人シリーズ第7回「競馬を愛したトルストイ」

Japan In-depth / 2024年8月16日 19時0分

アンナの恋人、貴公子ヴロンスキーも落馬してしまった!愛馬フルー・フルーが障害を飛越したときに背中の骨を折ったのだ。競馬ではレース中に馬が事故を起こしたとき、生きる可能性がないと獣医が判断すると、その場で予後不良として処分される。馬が痛みで苦しむのを避けるためだ。哀れ、フルー・フルーも同じ処置を受けた。





だが、アンナには馬の負傷は二の次である。ブロンスキーが無事だったのか。ただ、それだけを想った。





「そのとき、アンナは、ヴロンスキーの落馬した地点から、ひとりの将校が馬場を横切って、桟敷のほうへ走って来るのを認めた。(中略)将校は騎手にはなんのけがもなかったが、馬は背骨を折った、というニュースをもたらした。それを聞くと、アンナはいきなり腰をおろして、扇で顔をおおった。カレーニンは妻が泣いているのを、それも涙ばかりか、今にも激しく胸を振るわせてわっと泣き出しそうなのを見てとった」





アンナは夫のカレーニンと一緒に競馬場に来ていたのだ。当時の欧州競馬は今の日本のように大衆社会の娯楽などではない。「King of Sports」(スポーツの王様)なのではなく、「Sports of King」(王様のスポーツ)であり、当時の競馬場は貴族社会の社交場でもあった。政府の要人であったアンナの夫はこの日、競馬場で社交にいそしんでいたのであり、アンナはそんな夫の傍らでひたすらヴロンスキーへの愛を確認していたのである。ここで、なんという悪妻なのか!となじりたくなる人は、トルストイを読まないほうがいい。





『アンナ・カレーニナ』はなんども映画化され、多くの名優がアンナを演じている。グレタ・ガルボ、ヴィヴィアン・リー、ジャクリーン・ビセット、ソフィー・マルソー、キーラ・ナイトレイなど、ルッキズムの視点から口にするのははばかられるが、やはり眩暈がするほどの美形ぞろいである。アンナはそれほど魅力的な存在なのだろう。





さて、『アンナ・カレーニナ』の競馬場のこの場面がなぜ有名なのかといえば、それはアンナが自分の不倫を問いただす夫に対し、いさぎよく(?)事実と認めたクライマックス・シーンだからである。「いいえ、お考え違いじゃございません。あたしは絶望していました。今も絶望しないではいられません。あたしは、あなたのお話を聞きながらも、あの方のことを考えているのですから。あたしはあの方のことを愛しています。あたしはあの方の情婦です」。





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