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「恋人の落馬事故とアンナの不倫」文人シリーズ第7回「競馬を愛したトルストイ」

Japan In-depth / 2024年8月16日 19時0分

「あたしはあの方の情婦です」。言われた夫はたまったものじゃない。激怒してアンナと離縁する決意を固めたかというと、さにあらず。アンナが身勝手にも「絶望している」と叫んだのはまさにそのことを見越していたからでもあった・・・・・。





競馬場が夫婦の愁嘆場になる設定はトルストイだからこそである。日本では大井競馬場のナイター競馬は若者のデートコースになり、女性に不得手な男はデートの口実に競馬場を利用する。こと日本だけではなく、競馬場は男女関係の幸福な発展の場となることのほうが多いのだ。思い返すと、競馬場を悲劇の舞台にした日本の作家は、私の前回のコラムの「織田作之助」くらいであろう。その織田作之助がアンナ・カレーニナのこの場面を想起させるセリフを登場人物の作家に吐かせたのは、織田もトルストイの信奉者だったにちがいない。





日本に欧州の近代スポーツが導入されたのはむろん明治維新以降のことである。日本にやってきた欧州の外交官や軍人の娯楽として近代競馬は日本に紹介された。そんな日本の競馬場が、欧州と同じように貴婦人と貴公子の不倫を生み出す揺籃の場となったかどうかは、これからの研究課題――そんなことはしない。それほど私もヒマじゃない。





 『アンナ・カレーニナ』には競馬以外にも、アイススケートなどいろんな近代スポーツの描写が出てくる。トルストイは運動が好きだった。生きることは動くことであるとも言った。そのトルストイが生きることをやめた場所は小さな鉄道駅のわびしい駅長官舎だった。彼はそのとき、地球上のどこへ向かって、みずからの身体を飛越させようとしていたのか。それとも自死したアンナの跡を追ったのか。









▲写真 参考・引用文献:『アンナ・カレーニナ』(木村浩/訳 新潮文庫)出典:新潮社





トップ写真:『アンナ・カレーニナ』のワンシーン(左・グレダ・ガルボ、右・フレドリック・マーチ、1935年)出典:Photo by Metro-Goldwyn-Mayer/Getty Images




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