日中関係の再考 その6 中国の無法な海洋戦略
Japan In-depth / 2024年8月21日 11時0分
この研究所には日本でも広く知られた日系アメリカ人学者のトシ・ヨシハラ氏やアメリカ海軍の長年のアジアでの勤務で中国海洋戦略の実態をみてきたピーター・ダットン氏が勤務していた。なかでもダットン氏はつい3年ほど前まではこの研究所の所長を務めていた。そのダットン氏が中国の海洋領土紛争への対応について述べたことがある。
「中国の紛争相手国や国際機関に対する態度は“My way or no way”.だ」
つまり紛争の解決は自国の主張による方法でなければ、もう他の方法はない、という意味だった。中国は自国の主張を絶対に曲げない、ということだ。なるほど中国の南シナ海でのベトナムやフィリピンという領土紛争の相手国への行動をみると、当事者同士で協議や交渉をして妥協しあう、という態度はまったくうかがわれない。自国の主張だけを一方的にぶつけ、その通りに行動するというパターンが定着していることがわかる。日本の尖閣諸島への態度も同様である。
そこで数歩、引き下がって、中国の海洋領有権紛争へのアプローチに全体としてどんな特徴があるのかを紹介しよう。前述のアメリカ海軍の中国海洋研究所の分析をも参考にした特徴づけである。
第1には中国が国際規範を無視することである。
中国政府は南シナ海でのスプラトレー諸島の奪取でも国連海洋法の規定や国際仲裁裁判所の裁定を無視してきた。国連海洋法も無視して、排他的経済水域(EEZ)の規定なども、お構いなしである。
典型的なその事例は国際仲裁裁判所の裁定の排除だった。中国は南シナ海の大部分を自国領海だとしてその根拠に中国の古い文書にあったという「九段線」を提示した。それに抗議したフィリピン政府が国際仲裁裁判所に提訴し、同裁判所が「九段線」は違法だと裁定したが、中国政府はその裁定を「一片の紙きれにすぎない」と排除した。
第2には、中国は領土紛争に対しては多国間の協議を排し、二国間に徹する。
南シナ海、東シナ海での一連の領土拡張では中国はすべての事例で二国間のやりとりに終始してきた。第三国や国際機関の仲介を求める方式には反対する。
尖閣諸島に関しても中国側は国際機関の調停には一切、応じない態度を明確にしている。南シナ海のスプラトレー諸島についてもベトナム、フィリピンなどの関連諸国と個別に対峙してきた。
第3には中国政府は対外的な領土紛争に対して、まず国内法を利用する。
すでに述べたように中国政府は1992年に「領海法」を発布した。この法律は本来、国内法である。ところがその内容は日本領土の尖閣諸島などを一方的に中国領土だと断定していた。その中国の国内の法律を対外的にも勝手な拡大適用という形で打ち出し、尖閣などを中国領だと宣言してしまうわけだ。
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