日中関係の再考 その10(最終回) 厳しい現実への覚悟を
Japan In-depth / 2024年8月29日 11時0分
小学校低学年用の教科書に「わたしは中国を愛す」というタイトルの国語の読本がある。自国を愛することを最大の標題とする同読本は第1章の「わたしは中国を愛す」も「アジアに雄々しくそそり立つ中華人民共和国」という言葉で始まる。その他の章も「国旗」「民族大団結」「共産党はすばらしい」「社会主義はすばらしい」「国防の科学技術をたたえる」「美しい山河」「工業の大発展」というふうに前向きのテーマばかりである。中国の偉大で魅力ある側面を描く合計20の章が並ぶ。
だがそんな誇らしげで明るい基調も冒頭近くで突然、「日本軍の侵略」でさえぎられる。「屈辱の歳月」と題された第五章である。章の前半では旧中国が西洋の列強に財を奪われ、国土を割かれたことが記されているが、それと同じ分量の章後半の文章は「日本の侵略」だけを取りあげ、次のように述べていた。
「中国に侵略した日本軍はとても多くの凶悪なことをしました。放火や略奪の罪は天までとどくほどでした。日本軍はわが同胞何千万人をも殺し、中国人民に泥にまみれ、火に焼かれるような苦しみを与えたのです」
小学校の低学年生の読み書きの授業にこうした記述が出てくるのである。
この記述のあるページにはしかも日本軍の残虐と中国側の害を示す写真が計3枚、掲載されていた。
1枚は東京日日新聞(現在の毎日新聞)に載った「百人斬り競争」の記事の写真である。「百人斬り」とは1937年12月に東京日日新聞が日本軍の南京攻略の際に「2人の日本軍将校が日本刀でどちらが先に中国側の百人を斬るかという競争をし、それぞれ106人と105を斬った」と報じた事件だった。新聞記事だけを根拠に戦後の南京裁判でその2人が死刑になった。この「事件」は後の日本側の詳しい調査で事実ではなかったことが判明した。
だがこの中国の小学生用読本には「『百人斬り競争』の両将校」として2人が軍刀を持って立つ姿の写真記事が大きく掲載されていた。他の2枚の写真も同趣旨だった。その政治意図は明らかに中国の子供たちに日本の残虐性を刷り込むことだった。
中学や高校の教科書での反日志向はさらに徹底していた。とにかく日中戦争での日本側の残虐行為とされた事例だけを誇大して並べて、教えるのだ。
中学生用「中国歴史第四巻」の学習指導要領は日中全面戦争の歴史を教える目的として教師に対し「生徒に日本帝国主義の侵略犯罪への強烈な憎しみと恨みを触発させよ」と命じていた。中国の若者に対する日本は過去の軍事行動だけが特徴であり、日本側への憎しみと恨みを激しく抱かせるように教育せよ、という国家の方針なのだった。
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