日中関係の再考 その10(最終回) 厳しい現実への覚悟を
Japan In-depth / 2024年8月29日 11時0分
同時に中国の教科書は日本について戦後の国のあり方などはほとんどなにも教えていなかった。具体的には以下のような特徴があった。
・中学生用の教科書「中国歴史」は中国自体近代の歴史は1990年代まで詳述し、他の主要諸国の歴史には触れていても、日本の戦後の動きについての記述はまったくない。戦後の日中友好や日本の平和主義はもちろん教えられない。
・高校生用の「中国近代現代史」でも中国の戦後は詳述しながらも、戦後の日本への言及は「1972年、日本の田中角栄首相が訪中し、中日国交正常化の合意に調印した」という文字どおり2行だけだった。
総括するならば、中国の教科書は日本について日清戦争から日本の敗戦まで51年分は一貫して「侵略」と「残虐」だけをものすごい分量で教えるのに対し、戦後の日本が平和と友好に努めた70年以上の紹介はゼロに等しいのである。
以上のような中国政府の反日、抗日の基本姿勢は中国全土に築かれた日本軍の「残虐行為」を展示し、保存する記念館、博物館、公園、記念碑にも明示されている。
まずは南京市に建てられた「南京大虐殺」の記念館である。正式の名称は「中国侵略日本軍南京大虐殺受難同胞記念館」とされる。南京事件は毎年、中国の国家最高レベルの記念日とされ、国家主席が南京に出かけてくる。東北部のハルピン市には「七三一細菌部隊証拠陳列館」がある。そして首都の北京市には盧溝橋事件での「日本の侵略開始」を記念する「中国人民抗日戦争記念館」がそびえる。こうした国家施設は中国共産党政権が最重視する歴史の記録として永久保存され、「抗日」、そして反日の国是として内外に誇示され続けるのだ。
この種の施設のなかでも最も強烈なのは同じ盧溝橋地区に2000年8月15日に新設れた「中国人民抗日戦争記念彫刻塑像公園」だった。中国側からみての日本の残酷な侵略行動を文字どおり塑像の彫刻で永久保存して、日本への憎しみ、怒り、怨みを残すという意図を露骨に感じさせる施設である。
この塑像公園は8万6000平方メートルという広大な構内に青銅色のブロンズ塑像が合計38基、配置されていた。個々のブロンズ像は高さ4メートル以上、直径2メートル、一つ一つが「南京での大虐殺」「七三一部隊の魔窟」という個別の案件を表現し、そのすべてに日本軍に撃たれ、焼かれたという中国人男女の姿が無数に彫刻されていた。
第一番目の像は「日寇(日本の賊ども)の侵入」と題され、基台の金属板に「日本の侵略で中国にはなまぐさい風が吹き、血の雨が降るようになった」と記されていた。中国側が「三光作戦」と呼んだ日本軍の地域作戦や、日本側が中国労働者の遺体をまとめて埋葬したとされる「万人坑」も、それぞれ一つのブロンズ像として展示されていた。両方とも中国人男女が苦しみにあえぐ表情がリアルに刻まれていた。ものすごく手間のかかった彫刻の塑像群なのである。
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