軍オタが歪める防衛議論(後編)
Japan In-depth / 2024年9月22日 19時0分
着弾時の圧力の違いをネタ元に確認しましたが、明確にできない理由があるとのことです。大事なのは着弾の衝撃で乗員が死傷する可能性があるということです。
「軍オタ」たちは、我が国の世界最高峰の10式戦車弾があたっても貫通しなければ乗員は無事だと思い込んでいたようだ。だが着弾のショックで乗員が死傷することは装甲車両関係の基礎的な知識があれば承知している話だ。因みに防弾チョッキの防弾プレートにしても貫通せずとも着弾のショックで死亡することがある。彼らは自分たちの見識は10式の開発に関わった元富士学校機甲科部長よりも正しいというのだろうか。
筆者のソースは10式開発に関わっていた然るべきポジションにいた機甲科の元将官だったが、彼らは、筆者が「非実在人物」をでっち上げて嘘を書いたとでも思っていただろう。自分たちの意にそぐわない記事を書くやつは嘘つきに決まっていると根拠のない思い込みだ。つまり物事を「好き」「嫌い」でしか判断できず、「嫌い」なことを受けられずに、嘘だと断定するわけだ。
防衛省や自衛隊の発表が当てにならない実例も上げよう。筆者が追求した陸自の個人携行衛生品だ。自衛隊の衛生は大きく遅れていた。第二次大戦の旧軍よりも後退していると言って良い。まず個々の隊員がもつファースト・エイド・キットだ。陸自の「個人携行救急品」はPKO用がポーチを除くと7アイテム、国内用は2アイテムに過ぎなかった。対して米陸軍は止血帯ポーチも勘定に入れれば19アイテムであり、約3倍である。しかも米軍が施している救急処置の訓練項目は59だが、陸自がやっているのは2項目しかない。筆者はこの問題を追求し会見でも多数質問し、記事も多く書いた。
だが2014年、中谷防衛大臣、岩田陸幕長は共に記者会見で筆者の質問に答える形で陸自のPKO用の「個人携行救急品」は米軍の最新のIFAKIIと同等であると記者会見で強弁した。また当時の公開書類でも同様の主張がなされていた。だが、その後2015本年に発表された平成28年度防衛省行政事業レビュー」の「平成28年度防衛省行政事業レビュー外部有識者会合」資料では、この防衛省の公式見解が以下のように後退している。
「陸上自衛隊と米陸軍の個人携行救急品については、同等な部分はあるが、品目及び数量ともに少ない状況である」
このように防衛省は陸自キットの不十分さを認めている。また各アイテムについても、一部機能あるいは数量的に不足と認めている。だがそうであれば防衛省はそれまでの公式見解が誤っていたと認めるべきだが、それは行っておらず、こっそりと軌道修正をしている。その後016年11月15日民進党は自由党とともに「自衛隊員救急救命法案」(第一線救急救命処置体制の整備に関する法律案)を衆院に共同で提出した。残念ながら法律成立とはならなかったが、陸上自衛官全員に追加品も含めた救急品が支給されるきっかけとなった。実は筆者は民進党に呼ばれてこの件についてレクチャーを行っている。つまり陸自の携行衛生品が米陸軍のそれと同じレベルというのは、大臣や幕僚長も公的な発言をしたのに虚偽だったことになる。
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