軍オタが歪める防衛議論(後編)
Japan In-depth / 2024年9月22日 19時0分
このように防衛省や自衛隊の公式見解は正しいとは限らない。組織防衛のために事実を歪曲したり、嘘はつかないまでも事実を述べないことは多々ある。もう一つ例を挙げよう。
陸自のヘリ型UAV(無人機)だ。陸自はFFOS(Flying Forward Observation System)とその発展型で、偵察用に開発されたFFRS( Flying Forward Reconnaissance System長距離偵察システム)を運用してきた。これまた軍オタ諸君の自慢の国産兵器だ。だが開発と調達に350億円ほどかけた装備が大震災、放射能事故という「有事」にまったく役に立たなかったのだ。これを筆者が報じた。
ちなみに防衛省のFFRSの政策評価書の事業内容の説明では、
「(中略)~NBC(核・生物・化学)攻撃、災害派遣等の多様な事態に有効に対処できる無人偵察機」とあり、事業の目的にも、「~災害派遣等の多様な事態における適切な指揮活動を実施するためには、所要の映像情報の早期伝達が可能なシステムを保有する必要がある。無人偵察機は悪天候やNBC汚染下でも現場の詳細な情報をリアルタイムで映像にて得ることが可能である」
と、している。まさに東日本大震災で投入されるべき装備であった。
更に事業の達成状況に関しては、システムの構成、偵察能力に関する性能、探知・識別能力に関する性能、標定能力に関する性能、遠隔制御に関する性能に関してこれらを達成していると述べ、「極めて有用性の高い装備である無人偵察機を装備することが可能となった」と、結論づけている。これらは虚偽であった。
そしてこの件は国会で日本維新の会の中丸ひろむ議員の質問に対して徳地秀士防衛政策局長(当時)が答弁した。因みに筆者は中丸氏の質問作成に協力していた。
徳地防衛政策局長は使用されなかった理由を信頼性が低かったから認めている。だがFFRSに関しては導入から一年が立っていなかったことを言い訳にしていた。だがその後の熊本の震災でもこれらは使用されることはなかった。つまり実用に耐えないクズであるということだ。この件からも防衛省の公式発表が必ずしも当てにならないことは明白だ。
また防衛省と海幕は2008年度から調達が開始されたP-1哨戒機の稼働率を秘密にしてきたが、P-1の稼働率は現在でも3割程度に過ぎない。IHIの開発した国産エンジンと、光学電子装置の不備が原因だ。すでに運用は10年を超えており、よくある初期不良と言い訳はできない。だが軍オタたちは、P-1は名機であると主張していた。だが今年辞任した酒井良海幕長は辞任直前の会見で筆者の質問に答える形でP-1の稼働率は低く問題であるとの見解を示した。
情報の基本はまずは疑うことである。それはジャーナリストだけではなく、普通の人でも当たり前に要求されるリテラシーの基礎である。ところが軍オタたちは信じるところから始まる。これは宗教と同じである。
ぼくの大好きなP-1哨戒機の悪口を言うな、大好きな「推し」をけなされたアイドルファンと変わらない。兵器への偏愛を元に現実社会の国防を語るのは大変危険である。
(終わり。前編はこちら)
トップ写真:陸上自衛隊 10式戦車 出典:viper-zero/GettyImages
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