MR不足が招く医療現場の危機、高齢医師との連携で解決策を
Japan In-depth / 2024年11月26日 23時0分
上昌広(医療ガバナンス研究所理事長)
「上昌広と福島県浜通り便り」
【まとめ】
・医師と製薬・医療機器企業の癒着問題が深刻化し、医療の質が低下する恐れがある。
・製薬企業のMRが医師に提供する情報は、新薬の情報を手に入れる重要な手段だったが、近年は情報開示が進み、MRの役割が変化している。
・尾崎章彦医師が立ち上げた「製薬マネーデータベース」の活用で、双方の不適切な関係性の防止も期待できる。
尾崎章彦君という福島で診療する医師がいる。2010年に東京大学医学部を卒業後、千葉県での初期研修を終え、東日本大震災後の福島県に飛び込んだ。会津、南相馬での勤務を経て、現在、いわき市内のときわ会常磐病院に外科医として勤務している。
尾崎医師は、私が主宰する医療ガバナンス研究所の理事も務め、製薬企業と医師の利益相反について研究を進めてきた。英文での学術論文はもちろん、国内外のメディアでも何度も取り上げられている。
また、「製薬マネーデータベース」を立ち上げ、無料で公開し、この問題に関心がある人がチェックしやすい環境を整備した。医療関係者や患者さんはもちろん、マスコミ、行政、さらに警察関係者から問い合わせを受けることがある。情報を開示したら、様々な活用をする人がでてくるようだ。
最近、尾崎医師は、製薬企業だけでなく、医療機器企業と医師の利益相反についても研究を開始した。製薬企業と比べ、情報開示が遅れている領域で、不祥事が続いている。2023年9月には、国立がん研究センター東病院の元医長とゼオンメディカル、今年4月には、東京労災病院副部長とHOYAテクノサージカルの間での不透明なカネのやり取りが、贈収賄事件として立件された。
おそらく、このような不祥事は氷山の一角だろう。尾崎医師のデータベースを活用し関係者がチェックすることで、今後抑制力となっていくはずだ。
このような話を聞くと、医師と製薬・医療機器企業の「癒着」は深刻で、両者の接点は制限すべきと考える読者も多いだろう。確かに、一部の医師と製薬・医療機器企業の関係は不適切だ。医療界は勿論、製薬・医療機器企業には猛省が求められる。
実は、医師と製薬・医療機器企業の接触が疎遠になることには、少なからぬ弊害もある。近年、医療安全に深刻な影響を与えていると考えている医療関係者が少なくない。
それは、多くの医師が、医薬情報をMRに依存してきたからだ。MRとは、製薬企業に勤務し、医薬品に関する情報を医療従事者(医師、薬剤師、看護師など)に提供し、製薬会社と医療現場をつなぐ役割を果たす専門職だ。医療機器企業にも同様の職種が存在する。
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