米英がAI安全性確保で協力を発表(米国、英国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年4月4日 14時20分
米国商務省は4月1日、英国と高度な人工知能(AI)の安全性確保に向けて協力する覚書を締結したと発表した(米国側発表/英国側発表)。米英政府がそれぞれ新設したAI安全性研究所(AISI、米国AISI/英国AISI)がAIモデルの安全性試験を共同で実施するほか、両機関の人材交流などを通じて情報共有を図り、安全性試験に関する共通の手法の開発を目指す。
AIは、持続可能な社会の実現に向けてさまざまな課題解決に貢献することが期待される一方で、技術開発および普及が急速に進む過程で、例えば人種的偏見(バイアス)を持ったアルゴリズムが不公正な判断を行って人権を侵害するリスクや、偽・誤情報の生成に悪用される安全保障上のリスクなどが懸念されている(注)。そのため、AIの開発や利用に際して、安全性・信頼性を確保するためのルール形成の必要性が訴えられている。国際的には、OECD閣僚理事会で2019年5月にAIに関する原則が採択され、国連総会では2024年3月にAIに関する決議案が採択された(2024年3月25日記事参照)。いずれも法的拘束力はないものの、各国・地域が責任を持ってAIを開発や利用するための方針策定や国際協力を求める内容となっている。
米国や英国は、こうした国際的なルール形成を主導することで、イノベーション競争をリードしたい考えだ。米国は2023年10月にAIの開発や利用に関する大統領令を発令したほか(2023年11月1日記事参照)、直近では2024年3月に同大統領令に基づいて米国政府機関がAIを利用する際の指針を発表していた(2024年3月29日記事参照)。カマラ・ハリス副大統領は指針発表に際して、「これらの米国内の施策が世界的な行動のモデルになることを目指している」と述べている。また、英国は2023年11月にAIセーフティサミットを開催し、米国や日本を含む参加29カ国・地域で共同宣言を取りまとめていた(2023年11月2日記事参照)。
米国のジーナ・レモンド商務長官は覚書の署名に際して、「AIはわれわれの世代を定義する技術だ。この協力は、国家安全保障とより広範な社会におけるリスクに対処するための両国のAI安全性研究所のあらゆる分野にわたる活動を加速させるだろう。この協力は、われわれがこれらの懸念から逃げずに立ち向かうことを明確にするものだ」と指摘した。また、英国のミシェル・ドネラン科学・イノベーション・技術相は「ともに協力することによってのみ、われわれはこの技術のリスクに正面から取り組み、われわれ全員がより快適で健全な生活を送ることができる大きな可能性を引き出すことができるだろう」と述べた。
(注)米国調査会社のユーラシア・グループは、2024年の世界の10大リスクの4位に「AIのガバナンス欠如」を挙げている(2024年1月10日記事参照)。
(葛西泰介)
(米国、英国)
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