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欧州委、2040年の温室効果ガス排出削減目標として1990年比90%減を勧告(EU)

ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年2月14日 1時30分

欧州委員会は2月6日、2040年までに温室効果ガス(GHG)排出量を1990年比で90%削減するよう勧告する政策文書を発表した(プレスリリース)。EUでは欧州気候法により、2050年までの気候中立目標を定めている(2021年4月22日記事参照)。同法は2030年までに1990年比55%減とする中間目標に加え、2040年目標を今後設定することを義務付けている。2040年目標案は、気候変動に関する欧州科学諮問機関の報告書(2024年1月22日記事参照)と欧州委の影響評価に基づくが、あくまでも法制化に向けた市民や関係者との対話のたたき台と位置づけている。具体的な法案の提案は、次期欧州委が発足する2024年11月以降になる見込み。

政策文書は、2040年目標案の達成にはまず、2030年目標の達成に向けた包括的な政策パッケージ「Fit for 55」の完全な実施が必要とする。「Fit for 55」は、欧州委が欧州気候法の成立を受け提案したもので、関連法案の多くが施行済みか政治合意に達している(2023年10月12日2023年12月19日記事参照)。欧州環境庁(EEA)は、2030年目標の達成にはこれまでの倍以上の努力が必要と指摘しており(2023年11月1日記事参照)、実施の負担を強いられる市民や産業界などから不満の声が高まる中で、加盟国は難しいかじ取りを迫られることになる。

エネルギーの脱炭素化に関して政策文書では、再生可能エネルギー(再エネ)などの炭素排出ゼロ技術に限らず、原子力などの低炭素技術を含むあらゆる技術を活用する必要があると明記した。欧州委はこれまで再エネを中心に推進しており(2023年4月3日記事参照)、原子力については消極的な支援にとどめていた(2023年3月27日記事参照)が、再エネを補完するエネルギー源として原子力を位置づけたかたちだ。このほか、小型モジュール炉に関する産業アライアンスの立ち上げを発表するなど、積極的な支援対象に原子力を含む方針へ実質的に修正したとみられる。2040年目標案の達成には、GHG排出削減だけでなく、炭素除去を重視する方針も明らかにし、特に炭素回収技術の早期展開が重要とし産業炭素管理戦略を別途発表した(2024年2月14日記事参照)。

産業政策については、「欧州グリーンディール産業計画」(2023年12月15日付地域・分析レポート参照)に基づく新たな枠組みとして、産業脱炭素化計画が必要だとした。米国や中国が補助金を拡大するなど、GHG排出ネットゼロ実現に貢献する技術に対する世界的な競争は激化している。EUのネットゼロ産業が競争力を維持するためには、民間投資を呼び込むためのさらなる規制緩和や公的な財政支援が重要と強調。EUレベルの大規模な財政支援策である欧州主権基金構想やEU予算の大幅な増額は加盟国により既に否認されているものの(2024年2月6日記事参照)、域内産業の競争力強化にはEUレベルでの対応が必要だとの見方をあらためて示した。

取り組み強化の必要性が指摘される農業分野については、現地報道によると、当初は政策文書にGHG排出量削減目標値が明記される予定だったという。しかし、実際には「農業分野は2040年目標案の達成において重要な役割を果たす」との言及にとどまった。背景には、域内各地で広がる農業生産者の抗議活動(2024年1月31日記事参照)があるとみられる。

(吉沼啓介)

(EU)

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