バイデン米政権、予算教書に盛り込んだ財政赤字削減に向けた具体的取り組み公表(米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年3月14日 13時25分
米国のバイデン政権は3月11日、2025年度予算教書(2024年3月12日記事参照)に関連して、財政赤字削減に向けた努力をまとめたファクトシートを発表した。
ファクトシートでは、トランプ前政権が富裕層や大企業向け減税で2兆円近く財政赤字を増大させた(注1)とした上で、自らの就任以来、力強い経済成長とワクチン接種の推進による新型コロナウイルス対策費の縮小で、財政赤字を1兆ドル以上削減したと主張している(注2)。今後の財政赤字削減の取り組みについても、共和党の主張と対比し、バイデン政権がメディケアによる薬価引き下げ交渉や、大企業・富裕層向け増税、税の抜け穴防止、無駄な支出の削減などを通じて、今後10年間で3兆ドルの財政赤字を削減するとしているのに対し、共和党によるトランプ減税の恒久化など、大企業・富裕層に偏った減税案は10年間で3兆ドル以上の財政赤字を増加させるだろうと主張している。
同ファクトシートでは、財政赤字削減に向けた取り組みとして、(1)富ではなく労働に報いるように税制を改正、(2)大企業が公平に負担、(3)特別利益団体への利益供与の廃止という基本的な考え方の下に、2025年度予算教書の中で盛り込んだ措置を紹介している。言及した具体的な措置は次のとおり。
(1)富裕層に公平な負担をさせる
現在は税制上の巨大な抜け穴と優遇税制の効果で、富裕層は平均すると全収入の8%しか所得税を支払っておらず、消防士や教師よりも低い所得税率だと指摘。1億ドル以上の富を持つ所得上位0.01%の富裕層に対して、25%の最低所得税率を適用する。
現在の法律では、事業主がパススルー事業(注3)から得た利益の一部に対して、メディケア税の支払い回避が認められていると指摘。所得が40万ドルを超える者の勤労所得と不労所得に対するメディケア税を3.8%から5%に引き上げる。
トランプ減税で行われていた富裕層減税は、平均して所得上位0.1%の層に19万ドル以上の、上位1%の層に5万ドル以上の減税となっていたが、これらを廃止し、キャピタルゲインに対して所得税率と同じ税率で課税する。
米国国内歳入庁の予算を増額し、富裕層や大企業の脱税取締を強化する。
(2)大企業に公平な負担を求める
トランプ減税によって企業の利益は急増したが、雇用や投資は増加しなかったとし、約束された利益が労働者、消費者、地域社会に波及せず、株主と経営陣だけが恩恵を受けたと指摘。法人実効税率を28%に引き上げるとともに、最低法人税率を15%から21%に引上げ、大企業が公平な負担を支払うようにする。
大手多国籍企業のタックスヘイブンなどを利用した租税回避を阻止し、米国の多国籍企業の国外収益に対する税率を10.5%から21%に引上げる。
トランプ減税は役員報酬の大幅な引き上げをもたらした一方、中・低所得者層の労働者には役に立たなかったとの認識の下、100万ドル以上の役員報酬を支払う企業に対して、法人税減税の一部を適用しない措置を実施する。
(3)特権的利益への無駄な支出を減らす
インフレ削減法に基づいて薬価引き下げ交渉を実施し、処方箋薬へのアクセスを改善する。また、同法に基づく取り組みを基礎として、より広範囲に対象を拡大する。
石油会社は石油・ガスに対する減税措置で数十億ドルの恩恵を受けているにもかかわらず、価格引き下げや投資などを行わずに、自社株買いや合併・買収を進めたとし、石油・ガス会社の投資に対する減税などを廃止する。
メディケイドを管理する民間保険会社に対して、実際に要する費用を超える請求を行った場合に返金を義務付ける。
同種の不動産交換に対する税制優遇措置(注4)を廃止する。
暗号資産に対する税制措置を株式や債券に対するものと同様とする。
(注1)米国議会予算局(CBO)は、2017年のトランプ減税により、2018年から2028年までの総計で財政赤字は約1兆9,000億ドル増加すると試算している。
(注2)就任時の2021年の財政赤字は2兆7,750億ドル、2023年は同1兆6,950億ドルとなっている。
(注3)投資ファンドなどが投資によって獲得したキャピタルゲインなどの利益に関しては、その社に対してではなく、利益の分配を受けた者に課税される仕組みとなっている。
(注4)事業用または投資用の不動産の売り主が、特定の期間内に米国内の別の同種の不動産を取得することにより、キャピタルゲイン税を繰り延べることができる。
(加藤翔一)
(米国)
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