九州超える面積の所有者不明土地、利用権設定で活用の起爆剤になるか
JIJICO / 2018年2月24日 7時30分
九州超える面積の所有者不明土地、利用権設定で活用の起爆剤になるか
2019年夏以降をめどに所有者不明土地を有効活用できるようになる
政府が、所有者の分からない土地に公園や店舗などを作って利用できるようにする制度を始めるとのニュース報道が先日ありました。
参考・・・所有不明の土地、10年利用権…九州超える面積 (読売新聞)
この制度は、知事が事業者に10年間の土地が利用できる権利を与え、所有者が現れない限り利用する権利を延長できるというものです。来年夏以後の施行になるようです。
所有者不明の土地とは?「相続登記」が判断のポイント
「所有者不明土地」とはどういったものでしょうか?
この制度を始めるにあたっての背景には、所有者が分からない土地、すなわち「所有者不明土地」の拡大が挙げられます。「所有者不明土地」は「不動産登記簿上などの所有者台帳をみても、直ちに所有者が判明しない・あるいは判明しても所有者に連絡がつかない土地」をいいます。
具体的には、土地の所有者が亡くなってから何代も相続登記をしておらず、相続人が多数になっている・所有者がわかっても転居先などがわからず連絡のとりようがない・土地の台帳にすべての共有者が記載されていない(〇〇 外1名)といった場合があります。
「所有者不明土地」が日本で占める割合は九州より広い面積に
では、こういった所有者不明の土地の割合はどのくらいなのでしょうか?地籍調査によると、不動産登記簿上で所有者がどこにいるかわからない土地の割合は約20%、最終的に調べても所在がわからない土地は0.4%余りだそうです。
ただ、民間の団体(所有者不明土地問題研究会)によると、全国で約410万ha(平成28年時点)にまで上っていて、九州の面積(368万ha)を上回る広さになるとのことです。この所有者がわからない土地は、大都市以外、あるいは農地で高い割合を占めているとの結果も出ています。
所有者不明土地」を利用するにしても所有者の承諾が必要になりますが、先に述べたとおり意思確認できない事情があることから、せっかく再開発しようにもできない・あるいは災害対策にあたり支障が出るなどしています。
現在の法制度ではうまく土地活用ができない仕組みになっている
現在の法制度では、こういった「所有者不明土地」について、所有者が分からないのを前提に財産を管理する人を裁判所に選んでもらい、管理を進める制度・相続人がいない場合は相続財産の管理・清算の手続きをする人を同じく裁判所に選んでもらい売却処分などをする制度があります。
しかし、これらの制度を利用しようと思うと、費用を誰が負担するかの問題が出てきます。また、不在者、相続人のいないことをまず調査する必要がありますが、この調査が簡単ではなく(転居先がわからない・あるいは共有の場合共有者全員の相続人まであたるとなると対象者が数十人単位になるなど)、かなりの時間がかかります。
さらに、これ以外にも公共事業に土地を使う場合は土地収用法上、所有者の中で不明な人がいるのを前提に収用裁決ができる仕組みがあります。しかし、そもそも公共事業に利用するという必要がありますので民間で利用はできません。また仮にその点は満たすにしても利用する上で所有者を調査する必要があり、やはり、かなりの時間と労力を必要とします。
その他、土地を所有の意思を持って占有していると時効取得するという民法上の制度がありますが、10年で時効取得が認められるには、最初の時点から他人の土地と知らずに占有を始めたなどの要件を満たす必要があります。ですから10年で時効が認められるのはまれで、その間、あるいはその後所有者が現れたときにはトラブルになる危険があります。
このように、今現在ある制度を利用するには限界があり、「所有者不明土地」の有効な活用が難しい状況となっていました。
新しい制度では「10年間の一時利用」がしやすくなる
新しい制度によりますと、「所有者不明土地」を活用して事業をしようとする者が都道府県知事宛にまず事業計画を提出します。
そして、審査の上、知事が事業に公益性があると判断すれば、「地域福利増進事業」に認定されます。その場合は、10年間一時利用ができることになります。この制度は地方自治体をはじめ、民間企業、NPO法人などの利用が想定されているとのことです。
一部の地方公共団体では、利用されていない土地を使って、遊び場、図書館、イベントにも使えるテラスなどに活用して、地域の方々のコミュニティの場所などにして成功しているケースがすでにあるようです。
高齢化社会の進行、都会への人口流出などにより、特に地方ではこういった「所有者不明土地」がますます増えていく可能性が高いです。そんな中でも土地を有効に活用するための取り組みとしてこの制度の利用が進むことを期待したいです。
※参考資料…国土交通省「所有者不明土地を取り巻く状況と課題について」
(片島 由賀/弁護士)
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