伊藤沙莉の朝ドラヒロインは何かが違う!主人公をオテンバ・おっちょこちょいにしない、脱“あるある”『虎に翼』の新しさ|瀧波ユカリさん
女子SPA! / 2024年4月20日 8時46分
結婚とは、ひとつの“契約”である。寅子の少女時代の日本で、その契約は対等の者同士のあいだで交わされるものではまったくなく、結婚した途端に女性は法的に“無能力者”になる。寅子は、すでにそのことを知ってしまっていた。
「感動もしないし、男だけが浮かれて女たちは準備や目配りに追われている様を、寅子が歌いながら冷静に見ているあのシーンは、男女の不均衡を可視化する演出も含めて本当に見事だったと思います」
◆アップデート④母の情に少しも流されない/⑤男が母を説得する構図にしない
石田ゆり子演じる寅子の母・はるも、観る者に多くを投げかけてくれる人物である。
進学を切望する寅子の前に立ちはだかる、母という存在。悪気は、ない。なかば強引にお見合いを進めるのも、娘に幸せになってほしいからであり、当時の一般的な価値観が母・はるをとおして体現される。
「ドラマの作り手として展開を考えた場合、“母の情にほだされ葛藤する娘の心情”を描いたほうが母娘どちらの世代からも共感が得られる、という判断になりがちです。また同様に、“感情的な母を、周囲の物腰やわらかな男性たちがなだめて丸くおさめる”というのも、それぞれのキャラを立てることになるので選びがちになると思います。
しかしそうして描かれる母はステレオタイプだし、女性は感情的で男性は冷静、という偏見の強化にもつながります」
寅子がひそかに進学の準備をしていたことを母が知り、母娘は真っ向から話し合うことになる。母は娘の夢を頑として受け入れない……と思いきや、後日、娘が法律家の男性から「逃げ出すのがオチだ」といわれている場に出くわし、男を一喝する。
「共感を得るために主人公に無駄に葛藤させたり、ステレオタイプな母親像をなぞったりすることなく、そのうえで主人公に最初からぶれない強い意思を持たせる。同時に母の側にも、男に『お黙りなさい!』と言い、女性差別を助長する男性の罪について喝破するだけの知性と強さを付与した……第5回の展開はすばらしかったです。
制作側に、絶対にジェンダーバイアスを強化するようなストーリー展開にはしないという非常に強い意思があるだろうことを確信した回でした」
◆今後もアップデートに期待
朝ドラは幅広い年齢層が視聴するため、“あるある”が散りばめられることで安心して見られる人たちも一定数いるだろう。けれど時代が変われば、そこに視聴者が生きる実社会との齟齬(そご)がどうしても生じる。
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