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幼い娘3人を殺害した29歳の母親は“異常者”か?法廷での発言にみる生きづらさとは|ルポライター・杉山春さんに聞く

女子SPA! / 2024年7月23日 8時45分

 このケースに当てはまるのが、2018年に起こった目黒女児虐待事件。当時5歳だった結愛ちゃんをたび重なる虐待で殺害したとしてその両親が逮捕されたこの事件は、母親がその夫に配偶者間暴力を受け、逆らいにくい従属的な立場にあったとされています。

「この事件では家庭内で暴力の連鎖が起きており、妻が夫に自分の意見や考えを伝えて、状況を変えることができない、夫の考えに逆らえないといった、夫婦間にあるパワーバランスの不均衡が、結果として子どもに被害を及ぼしていました」

◆「助けを求めること」が難しい状況がある

 外から状況が把握しづらい家庭内暴力の実態。とはいえ、配偶者などから暴力を受けているとしても、当事者自身が声を上げたり助けを求めたりすれば、解決の糸口に繋がるように思えます。しかし、そうはいかない現実があるということに、杉山さんはさまざまな事件の加害者と対峙する中で気づいていったといいます。

「暴力とは、相手のよって立つ価値規範を変える力です。相手を自分の支配下に置きたい。コントロールをしたい。しかし、どれだけの暴力が家庭内で行われていようとも、その渦中にいるとき、当事者はそれを俯瞰して見ることが非常に難しい。そのため加害側もと被害側もそれを自覚していないパターンがとても多いです。

 先ほどお話したとおり、加害者・被害者の立場も複雑で状況により入れ替わることもある。客観的には加害をしていても『自分は悪くない』と心の底から思っていたり、ともすれば正義感から暴力を行っていたりもする。被害者自身も加害されていることを自覚しにくく、その場合いくら外野が『あなたは暴力を受けているんだよ』と伝えても、理解してもらえないのです」

 長年にわたり、児童虐待事件の取材を続けている杉山さん。しかし、それ以前に書いていた最初の著書『満州女塾』の執筆が児童虐待の構造を理解する上で役だったと言います。

◆旧満州で難民化した日本人妻たちとの“共通点”

 当時日本の植民地政策下にあった旧満州で開かれた花嫁学校「女塾」にいた女性たちについて綴られたこの本にも、現在の取材に結びついた背景──本事件のよう逃げ場を失い、子どもに加害してしまうケースが繰り返し発生してしまうメカニズムが潜んでいました。

「『満州女塾』を書いたことで、子どもを殺めてしまう親としては、当時の親たちも、現代の親たちも、その時点で精神的な病理性を抱えるまで追い詰められているという点では同じではないかということに気づかされました。精神的な病理性とは、この上もない心の苦しみ、トラウマと呼んでいいものです。取材対象者となった女塾の卒業生は、日本から開拓民の妻になるために送り込まれましたが、満州国崩壊後に夫は兵隊に取られており、子どもを連れて難民化して窮地に立たされた。つまり、国家や社会が、さまざまな意味で母親を追いつめていったわけです。

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