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幼い娘3人を殺害した29歳の母親は“異常者”か?法廷での発言にみる生きづらさとは|ルポライター・杉山春さんに聞く

女子SPA! / 2024年7月23日 8時45分

 しかしこれは必ずしも、女性や貧困家庭などの社会的弱者のための正義とはいえません。今回の事件で遠矢被告が法廷で語った言葉は、まさに『母親だったら子育てができて当たり前』というような、社会が思う母親像に自分がフィットできなかった生きづらさを表しています」

 社会的正義に適応できない生きづらさを抱えるのは、もちろん女性だけではありません。目黒女児虐待事件では、加害を行っていた父親自身が、幼少期に実父から暴力を受け、中学時代にはいじめのような体験をし、社会人になってからは不適応を起こしつつ働いていました。

「彼はわが子に“しつけ”と称してダイエットなどを強制し、約束が守られないと“反省文”を書かせていたなかで『俺のような思いをさせたくないから』と言っていたそうですが、その自己肯定感の低さは、彼のトラウマからくるものでしょう。

 報道では、彼がどれだけ異常で悪人かということが伝えられても、弱さについては触れられません。あくまでこれは私の考えですが、加害者の弱さについて報道が避けられる理由は、『我々も同じ状況に置かれれば、同じことをしうる』という可能性と向き合うことへの恐怖や忌避からではないでしょうか」

◆社会的弱者ほど“求められるかたち”に収まろうとする

 遠矢被告もまた子育てをする中で心神喪失の状態にあり、“弱さ”を抱える親のひとりでした。その背景には、社会に根付く「理想とする母親像」と、そうなれない自分自身とのギャップから生まれる葛藤があったのではないかという見方もできます。

「社会的な弱者ほど、アイデンティティーを周囲から否定され続けながら生きているため、本来の自分を『殺す』あるいは『隠す』ことで生き延びようとするケースは非常に多いです。周囲や社会から求められるかたちに無理にでも収まることで自分を保とうとするわけですが、その抑圧が生む精神的苦痛はとてつもなく大きい。そのひずみによって生まれるしわ寄せが向かうのは、さらに弱い立場にある子どもなのです」

 家族という最小のコミュニティで起こってしまう児童虐待事件を一件でも減らすためには、社会全体で共有される価値観を変える必要があると、杉山さんは呼びかけます。

「多くの報道機関が、今日お話ししたような虐待事件のメカニズムについては触れずに、加害者を“異常な個人”として取り上げるのは、ある意味で『子育てできない親は、こうなるぞ』という見せしめをしているようなものです。現代社会が抱える人権の問題を、今のようにあいまいにするのではなくオープンに話し合えるようになったら、子殺しはもっと減るのではないかと、私は考えています」

<取材・文/菅原史稀>

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