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幼い娘3人を殺害した29歳の母親は“異常者”か?法廷での発言にみる生きづらさとは|ルポライター・杉山春さんに聞く

女子SPA! / 2024年7月23日 8時45分

 そのなかで少なくない方が子どもをその場に放置したり、時には自ら殺めたりしています。『我が子の首に手をかけた』という人にも話を聞きました。中には出産直後、その場に新生児を置いてきたという方もいました。実際にそういうお話を聞く中で、人間が起こす行動というのはそれぞれが置かれる状況しだいであり、極限まで追いつめられた親が子どもに『死んでほしい』と感じてしまうこともあり得るとわかりました」

 女塾のあった当時と違い、現代は公的機関へ救いを求める選択も設けられています。しかしほかの家族から受ける暴力や貧困、過去のトラウマ、またさまざまな要因からくる“生きづらさ”により身の回りにある逃げ道が見えないところまで追いつめられ、孤立してしまう親がいるのです。

「2010年に発生した大阪二児置き去り死事件では、加害者となった母親が子どもたちをマンションの一室に50日間放置して男性と遊んでいたことが大きな注目を集めました。取材をして見えてきたのは、母親は幼い時のネグレクト体験や、14歳のときに性被害に遭ったことなどで病理性を抱えていたこと。その上で人生を通じて『男性に頼る』ということしかサバイブする術を見つけられずにいたことでした。

子どもがいながら窮地に立たされた彼女は、男性に頼って生きていくという逃げ道しか見えず、公的な機関に救いを求めるという方法が見えなかったのではないか。追い詰められるとメンタルヘルスはとても悪化します。事実だけを見ると母親に悪意があったとも捉えられますが、私の目にその苦しさは、満州から逃避行を行っていた女性たちが抱えていたものと重なりました。まるでこの大阪事件の母親だけが、戦地に難民となって子どもと共に取り残されているようにも見えるわけです」

◆遠矢被告が吐露した胸中にみる、社会に根付く価値観

 6月11日名古屋地裁では、遠矢被告が法廷で「献立が立てられず、自分にはあまり教養がないと思うことなどがありこんな母親でいいのかという気持ちでした」と胸中を吐露しました。この言葉は、社会に深く根付く“ある価値観”を表すものだと杉山さんは語ります。

「児童虐待事件の報道では、加害者が『怪物のような恐ろしい親』として伝えられます。このように、あたかも“異常な個人”が諸悪の根源であるように描く理由のひとつは、報道というものの背景に『社会正義』があるからです。それはつまり社会が考える“正しさ”であり、多数派のための価値観のこと。

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