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“サンバ界の松田聖子”日本唯一のプロサンバダンサー「肉体も衣装の一部なんです」

週刊女性PRIME / 2024年3月2日 13時0分

唯一の日本人男性プロサンバダンサー・中島洋二さん 写真提供/中島洋二さん

 サンバの国・ブラジルで開催される世界的なお祭り「リオのカーニバル」。ブラジルが真夏となる2月もしくは3月に行われ、10組以上のチーム対抗で優勝を争う。1チームに参加するのは3000人以上といわれ、世界各国から約10万人の観客が集まるという。

 そんな「サンバの世界選手権」に、実に27回出場。現在も連続出場記録を更新し続けている日本人男性サンバダンサーが中島洋二さん(51)だ。年齢など微塵も感じさせない筋肉を彩る艶やかな衣装で、リードダンサーを務め上げている。

 今年もカーニバルを大いに盛り上げた洋二さんに、その道のりと秘訣を伺った。

「日本人のサンバ」はダサいものの象徴だった

 洋二さんがサンバに興味を持ったのは大学生のころ。大学のラテン音楽研究会のサークル活動でサンバのリズムに触れ、浅草サンバカーニバルに学生連合チームとして出場した。

「ブラジルに縁があったわけではなく、日本生まれの日本育ちです。人前で踊ったことで、まさかこんなにハマるとは自分でも思っていませんでした」

 サンバの魅力にとりつかれた洋二さんは、'95年の春休み、本場のリオのカーニバルを体験するため初めてブラジルへ向かった。その後、大学院に通いながらも現地へ幾度となく渡り、'97年に初出場を果たす。

「インターネットが普及してなかった時代に、地球の反対側から来ている日本人でしたので、現地の人は話を聞いてすらくれない状況でした。向こうのスラングでは“日本人のサンバ”とは『出来が悪いこと』の慣用句になっていたくらいです。そんな時代に1人で乗り込んだので、参加したいと言ってもみんなから鼻で笑われて、正しい集合場所や時刻を教えてもらえなかったり、大変なことがたくさんありました」

 今でこそ「サンバ留学」をするような人も増えているそうだが、当時は情報もツテもない。現地の言葉も満足に話せない日本人に、ブラジルの風当たりは強かった。が、それこそがのめり込む要因となる。

「難しければ難しいほどハマるタイプだったというか、簡単に出られる世界観だったら、すぐ満足してやめちゃったと思うんですよね。若かったのもありますが、本当にサンバが好きで、本物として扱われるようになるまで『絶対に』やめない。そういう情熱がありました」

 今年で連続出場27回、コロナ禍すらも乗り越えたその情熱は、今も消えていない。

「今では『え、日本人なの!?』と言われるほどです(笑)。ポルトガル語も話せるようになったので『(ブラジルの)どこ出身?』なんてよく聞かれますよ」

 ゴージャスな衣装がことのほか映える、彫刻のような見事な体形をキープし続けている洋二さん。だが、筋トレを始めたのは、意外にもサンバダンサーとして活動を始めてしばらくたってからだったという。

「サンバチームにはいろんなパートがあって、最初は旗を持つ女性とペアで踊る王子様のような立ち位置をしていました。そこでは大きな衣装は着るけれども身体の露出は少ないため、肉体美を求められることもありませんでした」

 さまざまなポジションを経験するうち、キャスティングによっては肌の露出が求められることが出てきたそう。

「ブラジルのカーニバルは、ダンスの技術だけではなくて、衣装や本人の身体もすべてトータルでプロデュースができていないと生き残っていけないというシビアな世界です。ダンスが同じレベルなら、ビジュアルにインパクトがあるほうが認められる。つまり、肉体も衣装の一部。それに気づいて筋トレを始めました。30歳を過ぎたころで、何かしないと劣化していくだけだと思ったのもあります」

 週に5回ジムに通っているというが、食事制限をするのはカーニバルの時期だけだとか。普段は「よく食べ、よく飲みますね」と陽気に笑う。

「洋二スタイル」がカーニバルのトレンドに

 サンバダンサー特有の、羽根を背負う極彩色できらびやかな衣装は、学生時代に服飾を専攻していたこともあり、なんとすべて洋二さんの自作だとか。

 ひとつの衣装には、300本以上もの羽根や無数のきらびやかなラインストーンなどを手作業でつけるそうだが、「羽根は1本で1500円くらいします。そういった衣装の装飾は20年以上前からコツコツと買い集めたものを使用していますね」

 日本とブラジルにそれぞれ「衣装部屋」があり、日本には30~40着ほどの衣装が保管されているという。

「ブラジルでは団体で踊る人たちには衣装が支給されることもあるんですけど、僕のようにキャスティングとして役名がつくような人たちは、デザイン画をチーム側からもらって、各自でアトリエを探して衣装制作をします」

 だが、洋二さんのように自作ができるダンサーは「ほぼほぼいない」という。

「大学時代からパターンを学んでいて、長いこと衣装を作っていますし、プロと遜色ないと認められているので、自分の分は自分で作らせてもらっています」

 サンバといえば、極限まで肉体美を披露している女性ダンサーでもおなじみだ。だがこれまで、ソロを務める男性ダンサーが、肉体美を披露しつつ羽根を背負うスタイルは、洋二さん以前はほとんどいなかったという。

「最近、デザイナーさんや演出家の方から『これは洋二スタイルだよ』とデザイン画をもらうことも多くて。もう、“僕ありき”でデザインされているんですよね。事実、僕のような羽根を背負って“魅せる”タイプの男性ダンサーのポジションも増えてきて、感慨深いものがあります」

 カーニバルの「本物」になりたいという夢は、すでに叶っている。

 浅草とブラジル、年2回のサンバカーニバルの他にも精力的に活動を続けている洋二さん。

「身体のメンテナンスはしていますが、あちこちガタはきてますよ(笑)。コロナのときは逆に休めたなってくらいで、今はイベントもたくさんありますし、サンバ以外でも、渋谷のクラブでダンサーとして踊っていたり、コンサートのバックダンサーとして呼んでいただいたりするので、週に4、5日は踊り続ける生活が戻ってきています」

『マツコの知らない世界』(TBS系)に出演した際は、マツコ・デラックスと同じ年ということもあり、マツコにそのタフぶりを絶賛されたことも。

 そんな、一点の曇りなき現役ぶりだが、「引き際」を意識することもあるという。

「『参加する勇気』でここまできた自分ですが、『やめる勇気』も大事なのかなと。僕の“現役”ぶりに、友人には『サンバ界の松田聖子だね』って言われたことも。でも僕はどちらかといえば明菜派なんですが……(笑)」

 サンバ界を俯瞰してきたトップランナーとして、今、どのように思うのか。

「誰かに認めてほしいとか『俺を目指してこい』みたいな感じは一切ないんです。ただ自分がやりたくて、 サンバが本当に好きで、本場の土地でどこまで認められるかトライしてみたいっていう気持ちがずっと変わらない。それだけなんです」

 自分が踊りたいから踊り続ける。始めたころから少しも変わらない「情熱」がそこにある。

カーニバルの感想

 今年のリオのカーニバルを終えたばかりの洋二さん。今年は本人いわく“控えめに”3チームでの出場を果たす人気ぶり! そんな彼から早くも来年への意欲を示すコメントが届いた。

「参加チームが上位に残れず、『チャンピオンズ・パレード』で踊れないのは残念でしたが、何より無事に終われてホッとしました! リオのカーニバルが終わるとやっと年が明けた感覚なので(笑)、帰国後も来年に向けてモチベーションを上げていきます! 大役を果たすのは毎年プレッシャーですが、30回を目指して踊り続けます!」

華麗なサンバダンスで注目を集める中島洋二さん
山車に乗り、メインのダンサーとしてキレッキレのダンスを魅せる中島洋二さん

中島洋二(なかじま・ようじ) 1972年、神奈川県生まれ。武蔵野美術大学在学中よりサンバダンサーの活動を開始。'97年よりリオのカーニバルに出場。外国人男性としては前人未到のトップソロダンサー「Rei de Bateria(ヘイ・ジ・バテリア)」としてチームを牽引するほか、カーニバルの美術監督や衣装制作も手がける。浅草サンバカーニバルにもプロデュースやコメンテーターとして携わるほか、国内外でダンサーやモデルとしても活動。Instagram:@yohjileao

取材・文/高松孟晋 写真提供/中島洋二さん

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