レクサス新型「IS」はマイチェンなのに走りが激変! 大進化を可能にした2つの“武器”とは
くるまのニュース / 2020年11月26日 18時10分
2020年11月5日にマイナーチェンジして発売されたレクサス新型「IS」は、エンジンやプラットフォームを変更していないのに、大幅なレベルアップを果たしました。それを実現するのに2つの武器があったというのですが、それは一体何なのでしょうか。
■フルモデルチェンジ並みに進化したレクサス新型「IS」
2020年11月5日に発売されたレクサス「IS」ですが、レクサス自身はマイナーチェンジといっているものの、その内容は下手なフルモデルチェンジ以上です。
チーフエンジニアの小林直樹氏は、「パワートレインとプラットフォームを変更していないので、フルモデルチェンジとは呼べません」といいます。
筆者(山本シンヤ)は発売に先駆けクローズドコースで試乗しましたが、走りに関しては「激変レベル」であり、TNGA採用モデルと比べてもそん色ない仕上がりだと感じました。
それは、既存のプラットフォームでも大幅なレベルアップを可能した“何か”があったからでしょう。その秘密はどこにあるのでしょうか。
もともと、FR系のTNGAプラットフォームは「大」と「小」の二本立てで計画されていたといいますが、ISが使おうとしていた「小」は投資に対する採算から開発を断念。
「大」を使うという案もあったそうですが、コンパクトが絶対条件のISで使うには大改修が必要ということで、既存のプラットフォームを用いてTNGAレベルに引き上げる道を選んだといいます。
新型ISのプラットフォームは、厳密にいうと従来モデルのそれとは異なります。従来は「Nナロー」でしたが、新型は「GS」などが使うトレッド/全幅が広い「Nワイド」を採用しました。
もちろん、部分的な着力点剛性やブッシュ周り、構造用接着剤、ボディの固有振動数の調整などがおこなわれていますが、新型ISには大きな効果を生む“武器”がレクサスとして初導入されています。
その武器とは「ホイール締結のハブボルト化」です。
欧州車は古くからハブボルトを採用していますが、その理由は「締結剛性」のためです。
従来のスタッドボルト+ハブナットは、接合ポイントがスタッドボルトとナットのねじ山の2か所に対して、ハブボルトは車体との結合ポイントはボルトのねじ穴部分だけです。接合部分が少ないほうが取り付け剛性は上がるというわけです。
ハブボルト化による締結剛性向上により、ボディを無理に固めずに「力の連続性」や「車体をひとつの塊として車体全体で受け止める構造」を実現しやすいうえに、ステアリング切り出しのスッキリ感、リニアな応答性、サスペンションのスムーズな動きなど、走りに大きな影響を与えているそうです。
ただ、そんなに効果があると知りながら、なぜこれまで採用しなかったのでしょうか。
それは「作りづらい」という製造上の問題、そして「既存のホイールが使えない」という販売側の問題が大きかったとされています。
しかし、開発陣はTNGAレベルに引き上げるためには「やり切る必要がある」と採用を決断。もちろん工場側の協力なしではできないので、実際に乗ってもらって、「こんなに変わるならやらなければダメだよね」と理解してもらったそうです。
新型サスペンションのセットアップも違います。
筆者は新型ISに乗り「綺麗に動くのに一体感がある」と感じましたが、その印象を開発チームに伝えると「従来モデルは車体側のネガを適合やチューニングで対応していましたが、新型はハブボルト採用で解消。そのため、狙った性能を出しやすくなったのも事実です。従来はサスをストロークさせると悪い部分が出るのでなるべく動かさないようにしていましたが、新型はストロークさせてもリニア感が保てるため、そのようなセットアップ実現できました」と教えてくれました。
ちなみに従来モデルの3.5リッターV型6気筒エンジンを搭載する「Fスポーツ」には、「LDH(=VGRS(可変ギアレシオステアリング)、EPS(電動パワーステアリング)、DRS(ダイナミックリアステアリング)を統合制御)」が採用されていましたが、新型には採用されていません。
その理由はコストダウンではなく、制御を使わなくても同じ性能が出せるようになったということ。つまり、ここも基本性能の底上げを意味しています。
ハブボルトの採用で開発における「天使のサイクル」が回り始めたといってもいいかもしれません。
ただ、ひとつだけ気になったのは曖昧でルーズなステア系です。ここが最新モデルのようにスッキリしたフィールや直結感が出るといいのですが、「ISで使われる神経系(=ハーネス)が古いので、新しいハードと組み合わせるのが難しい」とのことでした。
■ニュルを再現した新設テストコースが新型ISの進化に貢献
新型ISは「下山テストコースで鍛えた」という部分も注目すべき部分でしょう。恐らく新型ISは、トヨタ/レクサス含めて初めてそれを謳ったモデルとなります。
下山テストコースは2019年4月に愛知県豊田市下山地区に新設された車両開発用のテストコースです。
レクサス新型「IS」
まだすべて完成していませんが、現在稼働中の第3周回路(カントリー路)はドイツのニュルブルクリンクの入力を再現したコースレイアウトで、自然の地形を活かした約75mの高低差、多数のコーナー、さまざまな路面に組み合わせた約5.3kmのコースとなっています。
新型ISの開発でこのコースを使うと決断したのは、「下山を使えばより厳しいストレスのなかでクルマをチェックできる」というのが理由です。
筆者も実際に走らせてもらったことがありますが、ニュルと同じようにクルマだけでなくドライバーにもストレスを与えるコースであることを実感させられました。
このコースはニュルでの走行データから前後/左右/上下のGレンジを測り、それをほぼ模擬できるようにシミュレーション。
さらに、ニュルを走るチームのフィードバックもおこなうことで、ニュルでないとわからないことも、効率よく再現できるレイアウトになっています。
その特徴は前後/左右/上下の「複合入力」と「切り替えしの多さ」、そして「アップダウン」が激しいことです。
いままではそのような確認は、ニュルへ行くか既存のテストコース(静岡県・東富士/北海道・士別)で評価ドライバーが短い路面状況の現象を引き伸ばして見ていたそうです。
しかし、ニュルへ行くのは年に数回のため色々なトライができず、既存のテストコースでは評価ドライバーとエンジニアが現象を共有しにくいといった悩みがあったのも事実です。
しかし、下山テストコースができたことで、「いつでもテストが可能&細かい作り込みもできる」、「現象が一発でわかる」、「ごまかしが効かない」、「操安性だけでなく商品性も確認可能」、「評価項目に合わせて自在性を持つ」など、クルマを鍛えるうえで多くのメリットを生んでいます。
リアルワールドも「もっといいクルマづくり」には欠かせない厳しい道ですが、新型ISはマイナーチェンジのメリットを活かし、「見た目は従来モデル、中身は新型」というテストカーで一般公道を走れたことも大きかったそうです。
このように新型ISを見ていくと、全面刷新をしなかったことで従来ではできなかった重箱の隅を突くような作り込みができたと思っています。
つまり、今回の大幅改良は飛び道具ではなく全体のバランス(総合力)で実現しており、その結果が「1+1=3」のような進化に繋がっているのでしょう。
改めて、クルマの開発は愚直にやること、基本に立ち返ることが「もっといいクルマづくり」への近道だということを再認識しました。
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