レクサス初のBEV専用モデル「RZ」を体感! フランスの道で感じた印象はいかに
くるまのニュース / 2023年3月13日 21時0分
2022年4月に世界初公開されたレクサス初のBEV専用モデルとなる新型「RZ」ですが、フランスの公道で乗った印象はどうだったのでしょうか。
■フランスで初の公道試乗!
2023年2月13日のトヨタの新体制発表の席で、佐藤恒治新社長は今後取り組む課題を3つ掲げましたが、その1つが「次世代BEVを起点とした事業改革」です。
この辺りは電動化をけん引するレクサスを中心に進めていくと思いますが、その皮切りとなるのが初のBEV専用車である「RZ450e」となります。
なおチーフエンジニアの渡辺剛氏は2月13日に新体制発表会で佐藤氏に代わりレクサスインターナショナル・プレジデントに就任しています。
すでに筆者は昨年プロトタイプをトヨタ下山テストコースで試乗済みですが、今回はフランスで開催された国際試乗会に参加し、いち早くリアルワールドで試してきました。
少しだけおさらいをしておきましょう。プラットフォームは「e-TNGA」、パワートレインは「eアクスル」と基本部分はトヨタbZ4Xと同じですが、それ以外の構成部品、制御系、味付けはRZ450e独自となっています。
エクステリアはすでに公開済みですが、ボディカラーの組み合わせで様々な表情を見せます。
個人的には新世代レクサスを象徴とする「ソニックカッパー」とBEVらしいクリーンさを持つ「イーサーメタリック」がいいと思いました。
ちなみにボディ上部がブラックのバイトーンを選択すると、グリルレスのフロントマスクの塗分けが変わります。個人的にはスピンドル部はブラックのほうがクルマは引き締まって見えるかなと。
インテリアはNX/RXとの共通性を持ちながらもクリーンかつ先進性を感じるデザインに仕上がっていますが、NX/RXと同じメーター表示やbZ4Xと同形状のシフトダイヤルはちょっと興ざめ。
ここはレクサスのBEVとして「新しい提案」があっても良かったかなと思っています。
ボディカラーによってイメージが変わる「RZ」
2850mmのロングホイールベースとフラットなフロアにより後席の居住性は見た目以上の高いです。
リアシートにも座ってみましたが、床下にバッテリーを搭載するのでフロア高はやや高めですが、着座姿勢はbZ4Xほど体育座りな感じはありません。
パワートレインは前後独立モーターの「ツインモーターAWD」でシステム出力は230kW(フロント:150kW/リア:80kW)。バッテリーはリチウムイオンで71.4kWhとなっています。
ちなみに改良型のUX300eはRZを上回る72.8kwhを搭載しますが、航続距離はRZが上で日本のWLTCモードで約500kmそうです。
プラットフォームはe-TNGAをベースにレクサス独自のボディ構造やブレース追加、レーザースクリューウェルディング/構造用接着剤/レーザーピニング溶接などの接合技術が盛り込まれています。
サスペンションはフロント・ストラット/リア・ダブルウィッシュボーン式で周波数感応ショックアブソーバー(FRDII)付、タイヤは前後異形でフロント・235/50R20、リア・255/50R20(18インチは前後共に235/60R18)を装着。
ちなみにリアのホイールは純正とは思えないワイドリムでタイヤは引っ張り気味に装着。これは接地面積をできるだけ稼ぐためだそうです。
このように基本素性を高めた上で、レクサス独自の武器を二つ用意。
その一つがツインモーターAWDの特性を活かした4輪駆動力制御システム「DIRCT4」です。
前後輪の駆動力配分を100:0から0:100までシームレスかつ綿密に行なうことで、前後輪の駆動力配分を100:0から0:100までシームレスかつ綿密に行なうことで、意のままのコーナリングもちろん、姿勢制御は快適性もサポートします。
もう一つはレクサスが10年近く開発を続けてきたステアリングホイールとタイヤを物理的に切り離す技術「ステアバイワイヤ」になります。
ドライバー操作&路面状況の伝達を行なう。最大のメリットは、繋がっていなが故にステアリングギア比を自由自在に変更できる事です。
実用域では取り回し性、ワインディングなどでは俊敏性、高速道路では安定性……と走行状態に応じた制御が可能な「夢のステアリング」です。
ちなみにRZ(プロトタイプ)のそれはステアリング操舵角を±150度に設定、ロックtoロックでも持ち替えは不要です。
■さて、いざフランスで試乗するとどうなのか?
試乗順番の関係から最初にステアバイワイヤに乗ります。
今回の試乗コースは中央に白線の無い狭い対面通行のカントリーロード(それも制限速度は80km/h)で、すれ違いがギリギリのタイトなワインディングや欧州特有のラウンドアバウトなど、ステアバイワイヤにとってはかなり痺れる走行環境です。
運転席に座ると操縦かんを彷彿とさせるテアリングがひと際目立ちます。
筆者の世代なら「ナイト2000」を思い出すと思いますが、持ち替え不要だからこそ実現できた形状です。
ワイパー/ウインカーレバー、パドルなどは独自の形状で一見使いにくそうに感じますが、どれも手を離すことなく操作が可能です。
個人的にはいすゞ「ピアッツァ」やシトロエン「BX」のようなコンセプトだと解釈しているので好意的に見ています。
ただ、ステアリング形状のインパクトに対してインパネ周りとのバランスは今ひとつ。
ノーマルのステアリングも設定するので仕方ないですが、レクサス「ES」の電子アウターミラーと同じように、今後はインテリア全体で見直す必要があると思っています。
自然体で乗れる「RZ」の特徴とは?
リアルワールドではどうでしょうか。
心配する気持ちがないと言えば嘘になりますが、走り始めて数百メートル、コーナーを2~3つクリアした所で、「これはノーマルステアより楽」と感じると同時に「これはRZの個性になる」と確信しました。
ステアリングギア比は速度に応じて可変されますが、その繋がりは自然で滑らかなのでどこで変わっているかは正直解りません。
多くの人は「微舵のコントロールが難しそう」と思うでしょうが、実際に乗ると印象はその逆で、むしろノーマルのステアリングよりも繊細なコントロールが可能です。
ちなみに慣れのポイントはステアリングを「回す」ではなく、行きたい方向にステアリングを「向ける」と言う操作を心掛ける事です。
Rの厳しいコーナーでは切り遅れや手アンダーの出にくさ、逆にRの緩やかなコーナーではジワーッと切りながら曲がる時のコントロール性の高さを実感。
ラウンドアバウトのように右~左と切り返すようなシーンでも探ることはありませんでした。
物理的にステアリングとタイヤは繋がっていないはずなのに「直結感」がノーマルステアリングより強いことに驚きます。
凹凸やグリップの変化など路面からのフィードバックは感じるのに、不要な振動やガタは遮断されており、むしろノーマルステアよりもスッキリ滑らかな操舵感です。
ちなみにパーキングスピードで車庫入れ/転舵を行なう時は、ノーマルのステアリングの感覚でステアリングを切ると初期の4WS(四輪操舵)のように思った以上に曲がってしまうので、コツを掴むまでは動きがギクシャクすることも。
この辺りは「慣れる」しかありませんが、スマホの文字入力を「トグル入力」から「フリック入力」に変更した時くらいのレベル感かなと。
要するに、慣れまではちょっと時間が掛かりますが、慣れてしまえば間違いなくこちらのほうが便利だと言うことです。
続いて、ノーマルステアに乗り換えます。NX/RXと同じ丸形のステアリングはどこかホッとする部分もあります。
もちろん最新のEPS制御を用いている事もあり、ステア系は軽い操舵力で超滑らかだが直結感が高く正確無比な操作が可能ですが、ステアバイワイヤを味わってしまった後だと、操作量の多さの煩わしさと手アンダーに悩まされる事に。
そう思ってしまうくらい、ステアバイワイヤは違和感がないと言うことです。
ステアバイワイヤばかりに気を取られてしまいましたが、ハンドリングも驚きのレベルです。
例えるなら、目線が高い2トン近い車両重量のSUVですが、まるでスポーツカーの如く路面に張り付いて安定して曲がります。
具体的には前後左右の姿勢変化は最小限で、コーナーの曲率に合わせて4つのタイヤのグリップ力が最適になるようにコントロールして旋回しているような感じを受けました。
この辺りは下半身が強靭、上半身はしなやかな剛性バランスや力の連続性にこだわった「車体」とストロークすることに特化できた「サスペンション」と言う基本素性に加えて、「DIRECT4」による駆動力制御の相乗効果の賜物でしょう。
前後駆動配分は走行状況に合わせてシームレスに変更され、ターンインはフロント寄り、コーナリング中はタイヤの接地荷重に合わせて可変、コーナー脱出時はリア寄りになっていると言いますが、これも正直いつ変わっているかは解らず。
更に言うと機械に強制的に曲げられている感じは皆無で、より自然、よりシームレス、より滑らかな制御。つまりDIRECT4は完全に黒子に徹しており、ドライバーは「自分の運転が上手くなった?」と感じるのみ。
開発陣は「スーパーナチュラルな走りを目指した」と語っていますが、まさにその通りの走りです。
フットワークはバイワイヤステアとノーマルステアで基本的には同じですが、乗り比べると「Direct4」を実感しやすいのはステアバイワイヤでコーナリングの一連の流れの繋がりがより高いレベルにあると感じました。
この辺りは、ステアリング舵角の少ないステアバイワイヤと駆動力制御を活用して曲がるDIRECT4の相乗効果が効いており、より「クルマ全体で曲がる」が実感しやすくなっているのでしょう。
レクサスのDNAである静粛性/乗り心地も抜かりなしです。
静粛性は「電気自動車だから、静かなのは当たり前でしょ」と思われがちですが、インバーター音や風切り音、タイヤノイズなども見事に抑えられています。
乗り心地は車体の減衰効果に加えてFSDIIの見事な味付け、更にはDIRECT4を活用したピッチ制御なども相まって、バネ下はよく動くのにバネ上は常にフラット。
路面の凹凸を超える際のアタリの優しさやスマートな振動収束(特に伸び方向)などは、AVS(電子制御ダンパー)要らず。「逆にAVSを組み合わせたら?」など期待はより高まります。
■RZに感じた「プラスα」とはなんなのか?
パワートレインはどうでしょうか。
システム出力230kWなのでパフォーマンス的には十分以上ですが、プレミアム系のBEVによくあるモリモリ湧き出るパワー感や凄い加速ではなく、余計なピッチングもなく滑らかにスーッと加速していつのまに速度が出ているというフィーリングです。
そういう意味では、レクサスの「スッキリと奥深く」の世界観に合った加速と言えるでしょう。
ちなみにECO/ノーマルモードはこれでいいと思いますが、スポーツモードは「ちょっと良くなった?」と言う変化代なので、もっとモーター制御の自在性や出力の出しやすさを活かした“アメージング”な特性が欲しいと思いました。
また、ASCを活用して「音」がプラスされていますが、その音は、レクサス「LFA」がヤマハ(発動機ではなく音楽のほう)と音作りを行なったように、RZも電気自動車にふわさいい音作りをもっと徹底してほしいなと感じました。
レクサス初のBEV専用モデル「RZ」は今後どうなっていくのか?
そろそろ結論に行きましょう。
RZは単なる「BEV専用車」ではなく、「レクサスならではのドライビング体験」をより明確にする存在と言えるモデルだと感じました。
現時点ではBEVは航続距離、充電時間、充電インフラなど不便があるのも事実です。
そんな過渡期の世の中であえてBEVを選んでもらうためには、筆者は内燃機関では得られない「プラスα」が重要だと考えています。
ではRZの「プラスα」は何なのか。
それは「凄い加速」ではなく、気持ちの良い「曲がり」です。
つまり、豊田章男社長がRZのテストカーに乗った際の映像で「何コレ!? ワォ!」と驚いた理由は、そういう事です。
発売は欧州・中国を皮切りにグローバルに展開、日本はノーマルステアが2023年度中に導入される計画ですが、残念なのは本命のステアバイワイヤの導入が遅れる事です。
開発陣は「より自然な制御にするため」と教えてくれましたが、個人的には現時点でも十分商品性はあると思っています。
厳しく言ってしまうと、モノには「タイミング」があり、それを逃してしまうとせっかくの武器が活かせない可能性も否めません。
今のトヨタはユーザーの意見をフィードバックし、共に成長していくと言う考えを取っています。
それはレクサスも同じで、新しい時代のユーザーとの「絆」、そして「おもてなし」に繋がるのではないでしょうか。
そう思うと、個人的にはまずは投入してシステムを理解してもらう事が大事で、それからオンラインもしくはディーラーでのアップデート対応を行なうべきだと思っており、早急なステアバイワイヤの投入を切望します。
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