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無酸素環境で生きるバクテリアの未知なるサバイバル戦略

共同通信PRワイヤー / 2024年6月3日 18時0分


研究の経緯

地下の堆積物環境では、微生物によって有機物がメタンへと変換され天然ガスとして埋蔵されています。天然ガス田や油田における微生物の活動を解明するため、産総研の地質調査総合センターと生命工学領域が協力して研究を進めています。地表の環境に比べ、微生物活動に必要なエネルギー源が極度に不足する地下環境で微生物がどのように活動しているのかという科学的問いに対し、われわれは極限環境では微生物同士の相互作用が鍵になると考え、天然ガス田の堆積物と地層水を採取・利用し、未知の地下バクテリアの培養に取り組みました。

なお、本研究の一部は、文部科学省 科学研究費補助金の支援を受けて実施しました。


研究の内容

今回、微生物同士の相互作用を活用した戦略的な培養手法により、国内の天然ガス田に由来する地下堆積物と地層水から新門バクテリアIA91株の培養に成功しました。IA91株の完全なゲノム配列の解析により、このバクテリアがMarine Group A(別名、SAR406、Ca. Marinimicrobia)と呼ばれる未培養のグループ(分類階級の「門」に相当)に属することが判明しました。産総研が新たな門を代表する基準株となるバクテリアを世界で初めて培養するのはこれで4例目となります(1〜3例目:2003年11月10日産総研プレス発表2011年6月1日産総研プレス発表2020年12月14日産総研プレス発表)。Marine Group Aは、1993年に遺伝子情報解析にてその存在が確認され、世界中の海洋や酸素のない環境(地下や堆積物環境)に広く生息することが知られています。しかし、このグループのバクテリアを実験室で培養した例はなく、遺伝子の発見から今回の培養株の獲得に至る約30年もの間、その生物学的特性は解明されていませんでした。


IA91株は、無酸素環境下で酵母エキスを利用して、発酵によりエネルギーを得て生きるバクテリアです。この株が増殖するためには、酵母エキスだけでは十分ではなく、他のバクテリアの培養液を必要とします。このようなIA91株の増殖メカニズムを解明する手がかりは細胞の形状にありました。良好に増殖しているIA91株の細胞は棒状(桿状)の形をしていますが、他のバクテリアの培養液がないと、ふぞろいでいびつな球状に変形してしまい、増殖しなくなってしまいます(概要図の顕微鏡写真)。細胞の形状を決めるのは細胞壁と呼ばれる成分です。バクテリアは細胞壁がなくなると、膨圧によって細胞が球状になることが知られています。このことから、IA91株は細胞壁を自身で合成できず、他のバクテリアの培養液に含まれる細胞壁成分を取り込むことで桿状の細胞を形作り、増殖していると考えられます。実際、細胞壁を染色してみると、桿状の細胞は細胞壁が検出されたのに対し、球状の細胞は検出されませんでした(図1)。さらに、IA91株のゲノム配列を調べてみると、細胞壁を構成する糖とアミノ酸の合成に必要な遺伝子が欠けていることが判明しました。そこで、培養実験により、細胞壁を構成する要素を糖・アミノ酸にまで分解したものを与えましたが、IA91株は球状に変形し増殖しませんでした。IA91株が唯一桿状となって増殖を示したのは、細胞壁の断片であるムロペプチド(MP)と呼ばれる物質でした。また、その際、MPがどのような種のバクテリアに由来するかは関係がないこともわかりました。一般的に、バクテリアは細胞壁の合成と分解を繰り返しながら増殖します。この時、細胞壁をMPまで分解し、それを再び細胞内に取り込んで細胞壁合成へとリサイクルすることが知られています。IA91株は、他のバクテリアがリサイクルするはずのMPを拝借して、自身の細胞壁の合成に利用していたのです(概要図)。

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