1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. プレスリリース

深海における生物多様性を調査する手法の高度化

共同通信PRワイヤー / 2024年5月31日 18時0分


そこで近年、eDNA手法と画像観察を併用した調査が行われてきています。しかし、深海底における観測例は極めて限られており、特に海山域を対象にした研究はありませんでした。


研究の経緯

産総研は、独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の主導のもと、コバルトリッチクラストの開発に向けた環境ベースライン調査に取り組んできました。今回、その一環として深海性魚類の包括的な多様性の調査・把握を実施しました。ここでは、海水とカイメン試料を用いたeDNA手法と、遠隔操作探査機(ROV)および自由落下型深海海底カメラ「江戸っ子1号」を用いた画像観察の両手法を併用しました。本研究は経済産業省の委託事業による成果です。


研究の内容

北西太平洋の海山の一つにおいて(図1上)、eDNA手法と、画像観察で得られた結果を比較しました。海水中のeDNAの分析には大量の海水をフィルターで濾過して、生物の破片や残渣を捕集・濃縮する必要があります。海底の基盤に固着しているカイメン動物は、海山域にも比較的多く見られ、周辺の海水を絶え間なく濾過することで浮遊している有機物を摂餌しており、天然の大量濾過装置としてeDNA分析に利用されています。


これらの異なる手法を併用することで、それぞれの手法では捉えきれなかった深海性魚類の把握が可能になり、解析の結果、合計18科の深海性魚類が検出されました。魚類の科の検出パターンは、eDNA手法と画像観察法の間で大きく異なっていました(図1下)。これは、画像観察では小さいサイズの魚類を捉えるのは困難であること、eDNA手法では使用したプライマーが不適で、効率的に捉えられない魚種が存在することが原因として考えられました。この結果は、eDNA手法と画像観察を併用することで、それぞれの手法では捉えきれなかった深海性魚類の把握が可能になることを示すと共に、海洋におけるeDNA手法の適用促進には、海山周辺で見られる外洋性板鰓類(概要図aなどのサメやエイの仲間)の遺伝子情報の蓄積と、そのeDNAを増幅するようなプライマーの適用が重要であることを示すものです。


個別の手法に基づく研究成果の発表は増えていますが、eDNA手法と画像観察のメリットデメリットを比較し、併用による相乗効果を明確にした研究例はほとんどありません。本研究成果は、今後の深海域における環境モニタリング戦略構築のための重要な知見をもたらします。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください