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フンで見つける魚の病気

共同通信PRワイヤー / 2024年6月17日 22時0分


研究の経緯

産総研バイオメディカル研究部門は、マイクロバイオーム解析によるヒトや魚などの健康や病気の治療に役立つ技術開発(2021年4月29日 産総研プレス発表「マイクロバイオーム解析のための推奨分析手法を開発」)に、また、生物プロセス研究部門では、ショットガンメタゲノム解析により見いだされた微生物機能の工学的利用技術開発(2022年5月13日 産総研プレス発表「ペットボトル原料製造過程における難分解性廃水の効率的な処理に成功」)に取り組んできました。また、理研環境代謝分析研究チームでは、NMR法による環境分析科学の新展開を目指して魚やフンなどさまざまな試料の解析を行っています。理研と産総研では、2021年度の理研―産総研チャレンジ研究「地域バイオエコノミーを担う陸上養殖システムの構築」において、両機関が連携し養殖技術の高度化に取り組みました。魚の病気をモニタリングするためのバイオマーカー探索はこれまでにも研究例がありますが、魚を傷つけず飼育水槽全体の健康状態を診断できるモニタリング技術の開発が求められていました。そこで私たちは、魚のフンに注目しました。水槽中に蓄積されるフンであれば、モニタリングのために魚を無駄にすることなく毎日採取することができ、飼育水槽全体の平均的な状態を頻繁に観測できます。今回、両者の取り組みに、長年冷水病研究に取り組んできた近大が有する高度な魚類感染実験技術を加え、「水槽中にたまった感染魚のフンに特徴となるバイオマーカーが存在するだろうか?」という視点で技術開発に取り組むことにしました。


研究の内容

まず、近大の実験設備において、アユの稚魚に冷水病菌を感染させる実験を行いました。比較のためのコントロール水槽では、冷水病菌を感染させず通常の飼育を実施しました。その結果、感染区のアユは次第に顎が欠けたり、体表が溶けたりするなどの症状を示し、実験開始から10日後には約8割が死亡しました。その間、定期的にフンを回収して三つの機関でさまざまな分析を実施しました。理研では、NMR法によるメタボローム解析を用いて、フンに含まれる代謝産物を網羅的に分析しました。その結果、感染した魚のフンでは、酢酸とグルコースの量が多くなっていたことがわかりました。また、近大と産総研において、魚のストレスマーカーとして知られるコルチゾール量を分析したところ、フン中のコルチゾールも同様に増えていました(図1)。産総研で実施したマイクロバイオーム解析の結果からは、フンに含まれる微生物も特徴的な変動を示すことがわかりました。感染区では病原菌である冷水病菌や日和見菌であるクレブシエラ(Klebsiella)属の存在割合が有意に増加していました。次に、段階的回帰法により、累積死亡率に関連する主要微生物やパラメーターを統計学的に抽出したところ、シピオンケラ(Cypionkella)属などの微生物の存在量や酢酸濃度といったパラメーターが累積死亡率と有意な相関関係にあるバイオマーカーの候補であることを見いだしました。さらに産総研において、フン中に存在する微生物のドラフトゲノム情報を獲得して機能遺伝子の分布を解析したところ、シピオンケラ属の微生物はさまざまな糖を利用して酢酸を生産する代謝機能を持つことがわかり、累積死亡率との関連性を微生物学的に見いだすことができました。

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