高強度レーヨンに迫る強度と伸度を両立した低環境負荷カーボンナノチューブ複合セルロース繊維を開発
共同通信PRワイヤー / 2024年6月25日 14時0分
レーヨンの製造過程では、溶剤として毒性の強い二硫化炭素(CS2)を使用します。二硫化炭素は揮発性が高く、レーヨンの製造工程で完全には回収できないため、一定量が大気中に放出されており環境への影響が懸念されています。二硫化炭素の代わりにリサイクル可能な溶剤を使用して製造したセルロース繊維は、製造過程の環境負荷が低く強度が高いものの伸度とタフネスがレーヨンのそれらに及ばず、レーヨンの代替としては十分な特性を有していません。ランフラットタイヤが普及し、自動車の自動運転が一般的になるためには、環境負荷が低く、レーヨンと同等の特性を有する繊維素材の開発が期待されています。
研究の経緯
2000年頃に、リサイクル可能なイオン液体を溶剤とするセルロース繊維の製造法(イオン液体溶剤法)が提案されましたが、得られる繊維の伸度とタフネスが高強度レーヨンに届かないことから機械特性の向上が課題となっています。そこでわれわれは優れた補強材として知られるカーボンナノチューブに注目しました。一般に補強材を添加すると材料強度は向上しますが、伸度は低下します。今回、タイヤコードとして十分な機械特性が得られるよう、補強材としてのカーボンナノチューブ束の大きさや添加量などを検討しました。
なお、本研究開発は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「戦略的省エネルギー技術革新プログラム/実用化開発/タイヤコード用CNT複合溶剤法セルロース繊維の開発」(2018~2020年度)、「脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム/実証開発/タイヤコード用CNT複合溶剤法セルロース繊維の開発」(2021~2024年度)による支援を受けています。
研究の内容
イオン液体溶剤法を用いたセルロース繊維の製造工程にカーボンナノチューブを組み込むには、溶剤に原料であるセルロースを溶かしてカーボンナノチューブを分散させる必要があります。イオン液体はカーボンナノチューブも均一に分散できることが知られており、この二つの原料と相性が良好です(図1a)。しかし、一般的な手法ではカーボンナノチューブを1本1本孤立した状態まで分散させるため、カーボンナノチューブは切断されて品質の低下が生じやすくなります。そこでわれわれは、カーボンナノチューブ本来の補強効果を引き出すため、その品質を保ちながら複数本からなる束としてイオン液体中に分散させました。図1bはその分散液から作製したカーボンナノチューブ複合セルロース繊維の写真です。図1cに示すようにカーボンナノチューブを0.1質量%添加することでセルロース繊維の強度を保ちながら伸度を3割増加、引張試験カーブの伸度と強度の積分で表されるタフネスを4割増加させることができました。図1dに分散液中のカーボンナノチューブ束のサイズに依存した繊維の伸度を示します。ここでのサイズとは遠心沈降法で測定したストークス直径(試料と同じ沈降速度、密度をもつ球形粒子の直径)です。サイズが約400~800 nmの範囲では、セルロース繊維の伸度が向上しますが、強度も低下せず保たれていることが判明しました。以上のように、カーボンナノチューブ束のサイズを調節して添加することで強度と伸度を両立させることに成功しました。さらに、繊維の紡糸速度(最大巻取速度)も3割増加し、生産性が向上することが分かりました。このようにわれわれはサイズを最適化したカーボンナノチューブ束を含む分散液を適量添加することで、環境負荷を低減したセルロース繊維の機械特性と生産性を向上できることを発見しました。これら性質の向上には、カーボンナノチューブ原料の選択も重要と考えています。今後、このカーボンナノチューブ複合セルロース繊維は、自動運転車の普及に向けたランフラットタイヤなどへの活用が期待されます。
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