1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. プレスリリース

Y染色体の退化・消失で性は失われてしまうのか!? 多様な動植物の性染色体研究から性の存続機構をひも解く!

共同通信PRワイヤー / 2024年7月11日 14時0分

 しかし、性染色体が辿る進化の道筋を考えると、実は話はそう単純ではありません。通常、性染色体は常染色体が性決定遺伝子を獲得することで誕生します。例えば、ヒトを含む哺乳類では、オス化遺伝子であるSryと呼ばれる遺伝子を獲得した常染色体がY染色体になりました。すると、オスになるために必要な遺伝子はY染色体に存在していた方が好都合となります。そうすれば、Y染色体を持つと必ずオスになるからです。つまり、これらの遺伝子はX染色体に移動せずにY染色体に存在し続けた方が性決定を安定化できることになります。そのため、多くの生物においてX染色体とY染色体は組換え[注6]をしません。

 ところが、組換えは有害な変異を除去する上でとても大切なメカニズムなので、組換えをしなくなったY染色体は退化し、多くの遺伝子が失われていくことになります。実際、ヒトのY染色体には、常染色体だったころに存在していた遺伝子のわずか3%しか残っていません。そのため、性染色体を用いて性決定を行う生物は、残されたごく少数の性決定遺伝子や妊性に関わる遺伝子を用いて、どうにか性を存続させていると考えられてきました。これを、性染色体は進化の行き止まりであると捉えて、「性染色体進化の袋小路」仮説と呼びます。これまで、この仮説が性染色体進化の普遍的プロセスとして広く受け入れられてきました。

 ただし、この仮説では、早晩多くの生物は性の存続危機に陥ることになります。つまり、性決定を安定化する上でメリットがあるはずの性染色体の獲得によって、逆に生物は種の存続危機に瀕しているともいえます。一方で、近年の解析技術の発展により、この矛盾を打破する新たな性染色体進化のモデルが提唱されました。それが「性染色体サイクル」仮説です。様々な生物種のゲノム配列が決定された結果、近縁種あるいは同種内でも異なる性染色体を持つことが明らかになってきました。つまり、生物は退化した性染色体を新たな性染色体に入れ替えることで性を存続させてきた可能性があるのです。しかし、この仮説の理解と検証はまだまだ不十分な状態でした。「性染色体サイクル」を「性染色体進化の袋小路」に替わる普遍的な性染色体進化機構であるとするには、より幅広い生物種における性染色体進化の研究データと最新の知見を統合し、包括的な視点で本仮説を議論することが求められていました。


4.研究の詳細

 研究グループは、性染色体サイクルを進化段階によって5段階に分類し、各段階における性の存続機構をまとめました。そして、① 誕生: 性決定遺伝子の出現、② 分化: 組換え抑制[注7]の確立、③ 退化: Y染色体の遺伝子の大量消失、④ 消失: Y染色体の消失、⑤ 入れ替わり: 性染色体の入れ替わりの各段階にあるユニークな性染色体を持つ生物種に焦点を当て、性決定機構を詳細に分析しました。また、過去の性染色体研究をまとめ、多様な生物における性染色体の誕生過程、性染色体が誕生してからの時間、性染色体の退化程度などの情報を集約して体系的にまとめました。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください