「見たいニュースだけ見る」はアメリカ特有の現象
共同通信PRワイヤー / 2024年10月30日 11時0分
(1)これまでの研究で分かっていたこと
ネットやソーシャルメディア上で「見たいものだけ見る」行動は「選択的接触」と呼ばれ、特に政治情報の利用やニュース閲覧の文脈で注目を集めてきました。自分の意見と一致する情報だけに偏って接触することで意見が極端になることや、反対意見に対して非寛容な態度を持つようになることが危惧されているためです。しかし、多くの研究は欧米、特にアメリカで行われており、アメリカ以外での知見が不足していました。また、アメリカ以外で行われた数少ない研究は、アメリカ以外の国・地域では選択的接触の程度が弱いことを示唆していました。したがって、アメリカとその他の国・地域における選択的接触の厳密な比較を行い、その差がなぜ生まれるのかを明らかにする必要がありました。
(2)今回の新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのために新しく開発した手法
本研究は、アメリカと日本、香港の3地域で、厳密な比較が可能な形で選択的接触を行動指標として測定しました。そのために、オンラインニュースサイトを模したモックサイトを3地域の文脈に即した形で作成し、さらに比較が可能な形でニュースヘッドラインを作成しました。ヘッドラインとして設定したのは、いずれも各地域における政治的リーダーに関するニュースであり(トランプ大統領、安倍首相、キャリーラム行政長官。いずれも肩書は当時のもの)、2つはリーダーに対してポジティブなもの、2つはネガティブなものでした。
この状態で、人々が自分の態度と一致するヘッドラインと不一致であるヘッドラインに対してどのように接触するのかを行動指標として測定しました。たとえば、安倍首相に好意的な日本人であれば、安倍首相に対してポジティブな記事が「自分と同じ意見の記事」、安倍首相に対してネガティブな記事が「自分の意見とは異なる記事」ということになります。「自分の意見とは異なる記事」よりも「自分と同じ意見の記事」によりも多く接触した、またはより長い時間閲覧した場合、選択的接触が生じたことになります。
本研究を通して、党派的な選択的接触はアメリカでは頑健に観察されましたが、日本や香港ではアメリカと比較してかなり弱いか、場合によっては全く観察されない場合があることが一貫してわかりました。また、この地域による差は、政治的分極化の程度の差によって説明できることがわかりました。すなわち、1)「見たいものだけ見る」という選択的接触は普遍的な現象ではなく、アメリカ特有の現象である傾向が強いこと、2)その原因の1つはアメリカが政治的に極性化して、リベラルな人々と保守的な人々の間での感情的対立が激化していることにあること、3)認知的不協和のような普遍的な心理的メカニズムではこの国の差は説明が難しいこと、が示唆されました。3)については、人間に普遍的に備わっている心理的メカニズムのみによって選択的接触が生じているとすれば、地域差や文化差は見られないはずだからです。
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