社説:京都の文化庁1年 課題検証して政策の拡充を
京都新聞 / 2024年3月26日 16時0分
政府の「地方創生」の一環で文化庁が京都に移転し、業務を始めてからあすで1年になる。成果を長い目で見る必要はあるが、物足りなさは否めない。
中央省庁が地方へ移転した初のケースである。霞が関の目線ではなく、地方に軸足を置いた政策立案につなげ、情報発信を強化できるかが問われた。
京都には文化財担当などの4課が移った。長官直轄の組織を新設した食文化と文化観光の分野を中心に、新たな政策の検討が進む。関西の自治体や経済界との意見交換も重ねている。
だが、献金被害を受けて解散命令を請求した世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題への対応のため、次長と宗務課が京都に移るめどが立っていない。
東京には著作権や国会対応の部署が今後も残る。実態は部分的移転で、「2拠点」体制が続く。この1年は、いかに業務を円滑に進めるかに注力せざるを得なかったのが実情だろう。京都からの独自の発信も乏しく、存在感を示せていない。
新年度予算は約1062億円と例年と同じ規模で、イタリアやフランスの5分の1程度にとどまる。文化観光の新事業では、文化財の活用や資金調達を自治体に助言する民間人材を京都庁舎に置く。京都国立博物館の敷地を候補地とする「文化財修理センター」は2030年度までに新設するとしている。
海外への日本文化の発信に力を入れる都倉俊一長官は、インタビューで「国際的な発信拠点として京都のブランドはすばらしい」と語った。一方で、移転の成果については「完成図を示すには10年かかる」と述べたが、道筋を見通すプランが必要ではないか。
人口減少が加速する過疎地を中心に、有形、無形の文化財の維持が厳しくなっている。能登半島地震で文化庁は輪島塗の復興に動きだしたが、必要な資材の確保や人材育成を巡る課題は、災害が起きなくとも各地で支援が急務となっている。
文化庁は予算の多くを文化財の修理や防災対策に充て、23年度は異例の約300億円の補正予算を追加して関連事業も拡充させた。文化財の保護や活用にとどまらず、地域の課題解決に向けて「文化の力」を高めるには、他省庁や民間との連携をさらに深める姿勢が欠かせない。
そのためには、文部科学省の外局という位置付けで良いのかが問われよう。日本文化の底力を育み、飛躍を支える政府の戦略が必要ではないか。文化庁の移転をきっかけとする幅広の議論の枠組みを求めたい。
中央省庁の地方移転は事実上、文化庁に続く動きが止まっている。首都直下型地震など大規模災害に備えて行政の代替機能を確保するためには、文化庁の移転を多角的に検証し、新たな政府機関の分散につなげる議論が必要だ。
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