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社説:憲法記念日に 後戻りさせず自治拡充こそ

京都新聞 / 2024年5月3日 16時0分

 日本国憲法の施行から77年を迎えた。情報と市場のグローバル化が進む一方、国家の利益を過剰に求めるナショナリズムが各地で摩擦を生んでいる。

 国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を掲げた最高法規の真価がいっそう問われている。

 なかんずく、私たちが立つ地域社会を形作る「自治」の視点から、憲法を見つめ直したい。

 30年前の1994年、政府は「個性豊かで活力に満ちた地域社会」を目指し、地方分権を推進すると閣議決定した。前年には同じ趣旨の国会決議があり、立法府と行政府が明治以来の中央集権体制を改革すると宣言した形だ。

 時は自民、社会、さきがけ3党の連立政権。大分県職員労組出身の村山富市首相に加え、京都府副知事だった故野中広務自治相、滋賀県知事だった故武村正義蔵相と京滋の地方行政経験者がそろい、大きな推進力になったとされる。

 バブル経済の崩壊で税収が減り、東京で一律に物事を決める手法も行き詰まっていた。

 「地方創生」10年の果て

 閣議決定の翌年には地方分権推進法が成立し、行政の権限や財源が洗い出され、2000年の地方分権一括法(地方自治法改正など)施行につながる。

 国の裁量で自治体に仕事を代行させる仕組み(機関委任事務)が廃止され、地方への指示は個別法の根拠が必要になった。不透明で不合理な上下関係から「対等な関係」への転換と位置づけられた。

 憲法は前文と第1条で国民主権を打ち出し、具体化の一環として第8章に「地方自治」(92条~95条)を置く。自治体の運営に関することは法律で定め、自主自律を保つことが要諦とされる。分権の推進は憲法の具現化といえる。

 しかし、12年の第2次安倍晋三政権以降、首相官邸に権限を集中させる「1強」体制が強まり、分権の機運は急速にしぼむ。

 14年に打ち出した「地方創生」が典型だろう。民主党政権が設けた自治体が自由に使える「一括交付金」を廃止し、事業ごとの補助金獲得や特区認定を競わせた。果ては税金の共食いを促すような「ふるさと納税」である。

 「地方創生から10年。東京一極集中が進み、地方の縮小が加速した事実に、国は向き合ってほしい」と京都府内のある首長は言う。

 危うい自治法改正案

 岸田文雄首相が掲げる「デジタル田園都市国家構想」に至っては、IT化普及の域を出ない。貧弱な地域策の一方、今国会に提出した地方自治法の改正案は看過できない問題をはらむ。

 改正案は「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」が発生した時、関係自治体に閣僚が必要な措置を指示できるとする。個別法に規定がない場合というが、具体的な想定は明らかでない。

 自治体からは「必要性が分からない」との声が上がる。全国知事会も「憲法で保障された地方自治の本旨や地方分権改革により実現した国と地方の対等な関係が損なわれる恐れもある」と表明した。

 政府は、新型コロナウイルス禍で国の方針に自治体が異論を唱えて混乱したことが改正の契機という。だが、思いつきのような突然の全国一斉休校や布製の「アベノマスク」配布、PCR検査やワクチン接種の遅れなど、いずれも「官邸1強」の独断が生んだ右往左往ではなかったか。

 自治体は振り回されながらも国に実情を訴え、現場の知恵と協力を生かして乗り切った。阪神、東日本大震災の時も同様だろう。

 国民主権支える地域に

 法案には、事前に自治体の意見を聞く手続きも盛り込まれたが、努力義務にすぎない。

 「国民の命を守る」といった美名の下、あいまいな想定で自治体を自由に動かす権限を国に与えることは、中央集権の主従関係へと逆戻りさせかねない。

 集団的自衛権の行使に道を開いた安全保障法制を土台に、岸田氏が進める反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有、日米の軍事指揮系統の一元化など、憲法9条に基づく専守防衛を空文化させる流れの延長線に、今回の自治体統制の強化もあるのではないか。

 沖縄県民の意思表示に向き合わず、辺野古の基地建設を力押しする姿勢からは疑わざるを得ない。

 重大事態を強調して国の権限を拡大する手法は、改憲論議にも通底する。衆院の憲法審査会で、自民党が中心になって進めるのは「緊急事態」に議員の任期を延長する条項の導入案である。

 だが憲法は、衆院解散時に非常事態があれば、参院の「緊急集会」で対応すると定める。無理筋の「お試し改憲」の狙いしか見えない。

 おととい共同通信がまとめた世論調査でも、改憲論議を「急ぐ必要はない」が65%を占めた。

 国会は、地方自治を規定した憲法を踏み越えかねない改正案の危うさを慎重に審議すべきだ。

 人口が急減する中、限られた資源と財源で暮らしを豊かにするには「わがまちのことは私たちで決める」という住民自治に近づけることこそ必要だろう。国は地方へ権限と財源に加え、人材の移譲も進めたい。自治体側の行動も要る。

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