社説:アマゾンの森林 日本も保護の責務ある
京都新聞 / 2024年5月9日 16時0分
岸田文雄首相がブラジルを訪問し、ルラ大統領とアマゾンの熱帯雨林保護を柱とする包括的な気候変動対策の推進で合意した。
日本の国土面積の15倍を超える広大なアマゾンの森林は大量の二酸化炭素(CO2)を吸収し、「世界の肺」とも言われる。
しかし、農地転用などのため伐採が加速し、干ばつや火災も相次いでいる。熱帯雨林の地中にはCO2を大量に貯留する泥炭もあり、破壊は地球全体の気候に壊滅的なダメージを与えかねない。
地球の反対側の日本にとっても傍観できない課題である。資金や技術、人材育成など、あらゆる面で協力を深める必要がある。
アマゾンでは、森林から放出される湿った空気がアンデス山脈にぶつかり、雨となって森林や農地を再生させる循環がある。森林破壊でこうしたバランスが崩れ、さらなる干ばつや温暖化につながっている。すでに一部地域ではCO2の排出量が吸収量を上回っているという報告もある。
日本とブラジルの協定には、国際的な「アマゾン保護基金」に日本も資金拠出することをはじめ、人工衛星や人工知能(AI)の利用による伐採の監視、持続可能な農業の推進などが盛り込まれた。
アマゾンの気候とブラジル農業の安定は、大豆やトウモロコシなどを依存する日本にとって重要な問題である。持続可能性を重視して、協力を続けるべきだ。
忘れてならないのは、日本をはじめ先進国の都合で現地の環境に負荷をかけてきたことである。
近年では、CO2排出の削減策として「バイオエタノール」の需要が先進国などで急増した結果、アマゾンでエタノールの原料となるサトウキビの栽培面積が急拡大し、森林伐採が進んだとも指摘されている。途上国で環境破壊をもたらす取り組みを「脱炭素」や「エコ」として認めてはなるまい。
昨年まで続いたブラジルのボルソナロ前政権は国際社会の批判を顧みず乱開発を推進していた。
アマゾンを「地球の共有財産」として保護するためには、先進国が資金面などの責任をより明確にし、ブラジルなど当事国を後押しする必要がある。
岸田首相のブラジル訪問は中国を意識し、「グローバルサウス」(新興・途上国)の筆頭格であるブラジルを西側に引き寄せる狙いもあったが、懐柔は不発に終わった。アマゾンの森林保護は一過性の外交パフォーマンスに終わらぬようにしてもらいたい。
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