タラちゃんの「謎の足音」の正体 独特の音は偉大な「先輩アニメ」の影響?
マグミクス / 2023年4月9日 18時25分
■『サザエさん』の世界で足音が出るボーダーラインは3~4歳?
お茶の間で長年愛されているアニメ『サザエさん』に登場する、「国民の子ども」的存在のタラちゃんは、元気いっぱいな3歳児です。何気なくアニメを見ていると聞き過ごしてしまいますが、タラちゃんが走った時に出る、「独特の効果音」を耳にしたことがある人は多いでしょう。
『サザエさん』のキャラクターのなかでその足音が出ているのは、幼児であるタラちゃんとイクラちゃんのふたりだけです。仮説のひとつとして、「幼児がよく履いている『ピッピ』と音が鳴る靴をイメージして作られた効果音なのではないか」という説があります。歩くたびに「ピッ」と音が鳴る幼児向けの靴を、幼少期に履いたことがある人もいるでしょう。
子供に音が鳴る靴を履かせる目的として、現実世界の母親たちの間では「迷子防止に役立っている」「靴のイヤイヤが激しかったから、靴は楽しいものと覚えてもらうために履かせた」と、安全の確保や外歩きの練習用に使う人が多いようです。
タラちゃんとイクラちゃんの母、サザエさんとタイコさんも、安全に楽しく散歩の練習ができるように、音の鳴る靴を履かせているのかもしれません。ちなみに、タラちゃんの友達・リカちゃんは年上で幼稚園に通っているので4~5歳と考えられますが、足音はしません。イクラちゃんは1歳半くらいでタラちゃんは3歳なので、足音が鳴るボーダーラインは3~4歳くらいになりそうです。
ところで、タラちゃんたちの足音を文字にしてみると、どうなるのでしょうか。ネット上では「ピポピポピポポーン」「スタピラタンスタピラタン」と、さまざまな表現が。人によって違う聞こえ方がするのも、また面白いところです。
タラちゃん以外にもドラえもんなど独特の足音が出るキャラクターはたくさんいますが、彼らのトレードマークである音の原点は『鉄腕アトム』と言われています。アトムの「ピョコピョコ」というかわいらしい足音は、当時の最先端だった「電子音響」を用いて作られました。
1963年に放送が開始された『鉄腕アトム』は、日本で初めてTVアニメ化された作品です。『サザエさん』は1969年にアニメ放送が始まったので、『鉄腕アトム』は6年先輩。当時はまだまだアニメーションの技術が発展しておらず、それをカバーしたのが、音響デザイナーの大野松雄さんが作り出した音です。
アトムの独特な足音に関しては、マリンバの音を録音したテープを手動で反転再生させて作られたようです。大野さんが生み出す音があまりに独創的だったので、原作者の手塚治虫先生とぶつかり合うことも、しばしばあったとか。しかし、十分な機材も揃っていない時代に、大野さんが自由な発想で未来の音を作り出したことで、『鉄腕アトム』はアメリカでもヒットしました。
そして、その『アトム』に同じく音響スタッフとして参加していた柏原満さん(『ドラえもん』『宇宙戦艦ヤマト』など代表作多数)は、その後『サザエさん』の音響効果やBGMの構成、選曲など、音の根幹部分を作る重要なスタッフとして関わっています。前述の大野さんの音響のすごさを題材にした2011年のドキュメンタリー映画『アトムの足音が聞こえる』でも、柏原さんはインタビューを受けていました。
映画の構成上の問題で、柏原さんのインタビューシーンは本編でカットされてしまったそうですが、代わりにこのインタビューは映画配給会社・東風の公式YouTubeで見ることができます。柏原さんは大野さんと働いていた当時を振り返り、大野さんからの影響の大きさを語っていました。
そして、「人や動物が歩いて、現実の通りの音が出ても面白くない」「アニメーションと言うのは『誇張』しなければならない」と、タラちゃんやドラえもんの足音が独特である理由についても言及しています。その他、柏原さんは『サザエさん』50周年記念ブック『サザエさん ヒストリーブック1969-2019』のインタビューでも、「アニメーションの音に大切なのは『誇張と省略』」と語り、タラちゃんの足音については「あれはやっぱり『誇張』」「子供が歩くと実際は『ドスドス』という音がするかもしれないですが、そのままつけてもかわいくないし面白くない」と語っていました。
誇張しようと思ってあの音を作り出す柏原さんもすごいですが、自由な発想を教えた大野さんがいなければ、あの記憶に残るタラちゃんの足音は生まれていなかったかもしれません。「どこから出ている音なのか?」という現実的な疑問は残りますが、実にアニメらしい自由な音ですね。
(LUIS FIELD)
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