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『グランツーリスモ』生みの親・山内一典が明かす、「GTアカデミー」誕生秘話と映画制作の裏話

マグミクス / 2023年9月15日 12時30分

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■ゲームプレイヤーから本物のプロレーサーへ…「GTアカデミー」誕生秘話

 2023年9月15日(金)より公開となる映画『グランツーリスモ』。作品のベースとなっているのは、1997年にPlayStation用ゲームソフトとして発売され、現在までシリーズを重ねているリアルドライビングシミュレーター「グランツーリスモ」シリーズです。

映画『グランツーリスモ』

 いわゆるゲームからの映画化となれば、通常であればゲーム内で描かれる物語をもとに実写映像やアニメーションとして再構築されたものを想像するでしょう。しかし、本作はゲーム業界に大きな影響を与えた「グランツーリスモ」シリーズのドライビングシミュレーターとしての完成度の高さから派生した、とある事象をもとにした「事実に基づいた物語」を描いています。

「グランツーリスモ」シリーズのゲーム内で運転できる自動車は、実車から徹底的にデータを集め、車輌によって異なる自動車の挙動や操縦性の違いまで徹底再現されています。またゲーム内に登場する実在するレース用のサーキットに関しても路面の状況や起伏などに至っても実際のコースと遜色のない作り込みがなされています。

 そういう意味では、「グランツーリスモ」シリーズは実際に自動車を運転して味わうことになる物理的な身体への負荷以外は、リアルな自動車の運転体験を味わえる最高峰のドライビングシミュレーターとして完成しました。

PlayStation 5/PlayStation 4用ソフト『グランツーリスモ7』

 そして、そのドライビングシミュレーターとしての完成度の高さを活かして、本物のプロフェッショナルレースドライバーを発掘・育成するプログラムを、「グランツーリスモ」を開発しているポリフォニー・デジタルと自動車メーカーの日産、PlayStationが手を組むことで実現します。「GTアカデミー by 日産×プレイステーション」(以下「GTアカデミー」)と名付けられたそのプログラムは、2008年から2016年まで実施されました。

 世界中から選び抜かれた「グランツーリスモ」のトッププレイヤーを実際のレーサーに育てることができるのか? そうした目標のもと「GTアカデミー」では、ゲームで培った運転技術に加えて、体力と精神力そしてコミュニケーション能力までを問う、ゲーム業界始まって以来の特別なチャレンジが行われ、実際に多くのプロフェッショナルレースドライバーを産み出すことになります。そして、映画では、「GTアカデミー」での挑戦の軌跡と、そこで生まれたドライバーの成長が描かれます。

映画『グランツーリスモ』

 今回お話を伺ったのは、ポリフォニー・デジタル代表取締役 プレジデントであり、『グランツーリスモ』の産みの親である山内一典氏。当時、世界のどこにもなかったドライビングシミュレーターを作りあげるべく、『グランツーリスモ』(PlayStation用ソフト)を開発し、その後、自身の作り上げたドライビングシミュレーターが持つ可能性と再現性を実証するように、「GTアカデミー」は欧州日産の協力を得て開始されました。

山内一典氏

 山内氏自身が、ゲーム制作から派生する形でリアルなレースの世界に関わることになった「GTアカデミー」に対して、当時はどのような思いを持っていたのでしょうか?

「『GTアカデミー』を立ち上げるきっかけとなったのは、2004年のニュルブルクリンクに参戦した時でした。そこで、日産のグローバルマーケティングディレクターのダレン・コックスに出会いまして。ダレンから、「『グランツーリスモ』のプレイヤーはプロのレーシングドライバーになれるか?」という質問をされました。その問いに対して僕は当時から確信があったので、『絶対になれると思うよ』と答えたところから、この『GTアカデミー』のプロジェクトはスタートしました」

 ダレン・コックスは、当時の日産のモータースポーツの中心人物であり、「GTアカデミー」を立ち上げ、軌道に乗せるために尽力した人物です。その奮闘ぶりは、映画内でオーランド・ブルームがダレンををモデルにした人物ダニーを演じています。そして、映画の中心となるのは、実際に「GTアカデミー」に選抜され、プロフェッショナルレースドライバーとなるヤン・マーデンボローの成長物語です。

実在の人物ダレン・コックスがモデルとなったダニーを演じるオーランド・ブルーム

 レースドライバーを目指しながらも、経済状況など現実的な部分でその夢をあきらめなければならない人たちがいるなかで、ゲームを通してレーサーになる夢を実現させることはできないか? 山内氏は以前から、『グランツーリスモ』をプレイしながらレーサーを夢見る人たちの思いを形にできる方法がないかと考えていたと言います。

「『グランツーリスモ』を通して、ドライビング・テクニックを学べて、スキルとして身に付けることができるのはわかっていましたが、それと実際のレースに出ることはまた別の問題があります。素人レベルのレースに出るためにもお金がすごくかかるし、その他にもいろんな要素をクリアしないと実際のレースに出ることはできない。だから、『グランツーリスモ』を開発した当初は、ゲームをプレイした人がレースにデビューすることは想像していませんでした。ただ、いつかそういうことができる機会が来るといいなとも思ってました。そういう意味では、『GTアカデミー』はそうした機会に恵まれた奇跡の様なプロジェクトだったと思います」

■「グランツーリスモ」生みの親から見ても、丁寧かつ緻密な映画

映画『グランツーリスモ』

 その思いが結実し、レーサーを目指す若者にとっての夢の登竜門となった「GTアカデミー」。このプログラムを通して実際のレースの世界に関わりを持っていく中で、山内氏も当初は思いもしなかった部分で自身の心境が変化していったそうです。

「『グランツーリスモ』を通じて学んだドライビング・テクニックが、リアルなレースの世界に通用することに関しては疑いを持っていませんでした。ただ、僕も『GTアカデミー』のプロジェクトが始まるのと合わせて初めて深くモータースポーツの世界の内側をだんだん知っていくわけです。ひとりのドライバーをあれだけ大勢で構成されたチームがサポートしながら走らせて、勝負するというやり方は、他のスポーツとは大きく違うところがある。彼らがやっていることは、本当に『戦場』に近い。そんな世界で、『GTアカデミー』から輩出されたドライバーたちは、デビューするやいなや次々と勝ちまくっていくわけですが、同時に心配も増えました。命の危険にさらされる可能性もそうですし、レース業界は次から次へと勝負で勝ち続けなくてはいけない世界なので。そういう厳しい世界に引き入れてしまった彼らの人生について心配するようになりました」

映画『グランツーリスモ』

 映画の中では、「GTアカデミー」に選抜されたゲームプレイヤー出身のレーサーは「シムレーサー」と呼ばれ、実際の運転経験の少なさをバカにされるシチュエーションが登場します。現在では、実力によって、ゲームプレイヤーが一流のレーサーになることは証明されており、そうした低い扱いは映画としての演出とも取れる表現ですが、実際には「GTアカデミー」に参加したプレイヤーたちの扱いはどのようなものだったのでしょうか?

「『GTアカデミー』が開始した2008年当初、確かに彼らはそういう扱いを受けていたと思います。ただ、『GTアカデミー』のウィナーが実績を上げるにつれ、違う意味での批判も出てきました。例えば、劇中でヤンが出場していた『ADAC GTマスター』のようなレースでは、アマチュアドライバーはプロと組んで出場してもいいというハンディキャップルールがあります。当然『GTアカデミー』出身者はリアルサーキットでのレース経験が無いからブロンズと呼ばれるアマチュアクラスでエントリーするわけです。でも、『GTアカデミー』の選手は初年度から皆かなり速かったので…。レース経験のあるプロよりも速かったりしたので、『あれはズルいだろう』『あれはアマチュアじゃない』と言われるようなことはありました(笑)。彼らは、実際にゲームの中で有名サーキットを何千周もするようなプレイをしていて、実車には乗ってなくても経験としてコースを知り尽くしていますからね。さらに当時でも『グランツーリスモ』は世界各国・各地域に相当数の競技人口がいて、そこからレーサーになった彼らは、その中のトップ中のトップになるわけですから、とてつもない才能があると思います」

映画『グランツーリスモ』のモデルとなったレーサー ヤン・マーデンボロー選手

 そうしたゲームプレイヤーからレーサーへとステップを上がるドラマが描かれる「GTアカデミー」から派生した映画『グランツーリスモ』。本作で映画のエグゼクティブプロデューサーも務める山内氏は、制作にはどのように関わり、どのような希望を伝えたのでしょうか? そして、完成した映画の仕上がりにはどのような感想を持ったのでしょうか?

「映画の制作に関しては、基本的にはソニー・ピクチャーズの皆さんにお任せした形です。なので、僕自身が関わっていたのはスクリプトの第一稿までですね。その段階で僕から申し上げることはそんなにはなかったんです。ただ、ひとつだけ脚本家の方から相談を受けたのは、劇中のとあるレースの展開で『ゲーマーならではの視点を入れる事はできないだろうか?』というものでした。そのレースで、『GTアカデミー』出身のヤンがどのような走りをするのか。『グランツーリスモ』をプレイして劇中に登場するコースを何千周も走り込んでいるからこそできる走り方があると思い、ちょっとだけアイデアを出しました。映画自体は紆余曲折があってようやく出来上がったもので、結果的には素晴らしい映画になって良かったなと胸をなでおろしています。いわゆるエンタテインメントとして、見た人の気持ちをポジティブにさせてくれる映画であると思いますし、一方で細部まで緻密に、丁寧に作られてもいるので、そうしたこだわりも『良かった』と思わせてくれる仕上がりになっています」

■ eモータースポーツの可能性は?

映画『グランツーリスモ』

 コンシューマーゲームから派生し、夢見る者たちのサクセスストーリーとなった映画『グランツーリスモ』。この作品から「グランツーリスモ」というドライビングシミュレーターの存在を知る人、「GTアカデミー」というプログラムが存在していたことを知る人も大勢いるでしょう。そして、そのふたつの要素からゲームが夢を掴むための新たな「きっかけ」になっていることを実感する人も多いはずです。そうした状況に、山内氏は改めてどのような思いを抱いたのでしょうか、

「今回の映画は『GTアカデミー』という『グランツーリスモ』の歴史の中にある10年間を切り取った物語になっています。そこは、僕自身もある意味忘れていた景色でもあるんです。映画で描かれるシチュエーションのその時々に現場にもいたし、レース独特のヒリヒリ感の中にもいたんですが、ある意味忘れていた世界でもあって。それが今回、いろんな幸運に恵まれて、素晴らしい映画になった。言って見れば、ある意味その10年間が結晶化したものであって、本当に奇跡みたいなことが起こったなと思っています。『グランツーリスモ』シリーズのプレイヤーの皆さんも、それぞれに『グランツーリスモ』をプレイしてきた中で歴史や思い入れがあると思うので、この映画を観ることでそうした風景を思い出していただければいいんじゃないかと思います。
僕は、『グランツーリスモ』をプレイすることで、人生を無駄にしたと思って欲しくないという気持ちがあるんです。そういう作品にしたい、と思ってゲームを作っているところがあって。だから、映画を観て『グランツーリスモ』と出会った人は、そこからゲームをプレイしてドライビングスキルを学ぶでもいいし、自動車の文化を学んでもいい。あるいは、自動車のデザインを知るでもいい。何か自分が成長できることにつながってくれるといいなと思っています」

映画『グランツーリスモ』

 ドライビングシミュレーターの進化によって、リアルなレーサーとプレイヤーの垣根が無くなったという事実が、映画『グランツーリスモ』では描かれています。そして現在、ゲームの最新作である『グランツーリスモ7』(PS5/PS4用ソフト)は、eモータースポーツとしての競技の発展に貢献し、「オリンピックeスポーツシリーズ」や「国体・文化プログラム」の競技に選出されるなど、さらなる広がりを続けています。そうした変化をしている現状を山内氏はどう見ているのでしょうか?

「リアルからバーチャルへ、と言っていたのが15年前のことなんですが、今起こっていることはリアルとバーチャルの境目が既に無くなっていると思うんです。そうした状況を踏まえて、どうやって未来のモータースポーツをデザインするのか? 現在はそういうタイミングに差し掛かっていて、それをまさに模索をしている時期なんだと思います」

 コンシューマーゲームのテクノロジーが発展し、ドライビングシミュレーターとして一時代を築いてきた「グランツーリスモ」シリーズ。映画で新たに示されたゲームの持つ可能性は、そこからさらに次なるステップへと向かっていると言えるでしょう。

インタビューを行ったポリフォニー・デジタル 東京スタジオ内

映画『グランツーリスモ』
9 月 15 日(金)全国の映画館で公開
配給:ソニー・ピクチャーズ

PlayStation 5/PlayStation 4用ソフト『グランツーリスモ7』
(C)2023 Sony Interactive Entertainment Inc. Developed by Polyphony Digital Inc.
“Gran Turismo” logos are registered trademarks or trademarks of Sony Interactive Entertainment Inc.
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(石井誠)

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