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『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』物語を成立させる喫煙という「薄い絆」

マグミクス / 2023年10月17日 18時10分

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■マンガ『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』に抱くおじさんのロマン

 マンガ『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』(地主/スクウェア・エニックス「月刊ビッグガンガン」連載中)は、ブラック企業に勤めるおじさんとスーパーの若い女性店員が喫煙所で交流するという、一風変わった作品です。この物語は、私こと筆者を含めたおじさん喫煙者ならつい憧れてしまう、若い異性との忌憚のないやりとりが描かれています。そこで、この物語に抱くおじさんのロマンを考察(妄想)します。

物語のかいつまみ

 仕事に疲弊する喫煙者の中年男性「佐々木」が、仕事終わりに癒しを貰っていたのは、スーパーSの清楚かわいい系女性店員「山田」の接客でした。佐々木はあえて山田が担当するレジに並び会計するほどのファンです。ある日ひょんなことから、スーパーの女性店員で後ろに髪をくくりロックスタイルに身を包んだ喫煙者「田山」が、店の喫煙所に佐々木を誘ったことからふたりの交流が始まります。その田山というのが、見た目を少し変えた山田なのですが、佐々木は一向に気付かず仲良くなっていきます。

……という、いわゆる日常系のお話しです。私も喫煙中年であるため佐々木に感情移入してしまうわけで、その何にロマンを感じてしまうかというと、下心とはちょっと違う、喫煙者がもつ「うしろめたさの共感」と「喫煙所という秘密基地感」、および「世代が離れた若者との交流」が淡い憧れを抱かせてくれるのです。

 そして佐々木と田山(山田)のキャラクターも憧れを加速させる要素があります。

田山24歳、あざとさと興味の狭間

 清楚系の山田は、お客さんにダルがらみされ辟易していました。しかし佐々木が山田に抱く「接客に元気を貰っているだけ」という好意を知った山田こと田山は、佐々木に興味をもち、心を許していきます。

 そんな田山は、並んで座れる椅子があるスーパーの喫煙所で、自分の足で佐々木の足をたぐり寄せてみたり、タバコをくわえたまま火を貰おうと顔を近づけてみたり、上着を着せてあげたりと、いたずら心のあざと行為で佐々木を動揺させます。そこには、多少の好意も含まれるのでしょうが、佐々木が見せる狼狽や恥ずかしそうにしているのを見て楽しみ、田山側も「癒し」を得ているようです。

 一般のおじさんである私であれば、ホビーにされていることに気づかず勘違いし口説いてみたり(後に当然のように轟沈)、逆に恐怖を感じその喫煙所には近づかないといった陰キャマインドを発揮してしまったりするところです。しかし佐々木の所作は異なります。以下で解説しますが、その鈍感さと誠実さが田山には刺さり、それを欲するように田山は毎回、あざとムーブを繰り出していくのです。

■若者に対し「無害でいる覚悟」の魅力とは?

ストーリーのなかでは、佐々木と田山がタバコを吸うようになったきっかけも語られる 『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』第2巻 (スクウェア・エニックス)

佐々木45歳、若い子に対して無害でいる覚悟

 佐々木は、喫煙所での田山との交流について、いたずらされてもなお好んでいるようで、いじられることに一定の楽しみをもっている様子でもあります。

 20歳以上も離れた女の子にいじられても機嫌を悪くすることがない佐々木の懐は深く、田山に感謝すらしていて、差し入れやちょっとしたプレゼントをしたりし気が利きます。また田山に対し、素直に教えを乞うたり、年齢的マウントをとらなかったり、武勇伝をひけらかすこともなく、出しゃばりません。いにしえの文化を自慢げに語らず、若者文化を知ったかぶりしないなど、おじさんの特有のダルさもありません。

 一方で、リアクションが大きく、少々の卑屈さをもっていて、これが田山におちょくられる一因でもあります。そして彼の一番の特長は、田山の話を真剣に聞く「聞き上手」でいるところ。これは相手が若者でなくても、他人を惹きつける素養だと思います。

 上記のように田山との交流を楽しんでいる佐々木には、この距離感を壊さないためにも誠実に向き合い、一切スケベ心を出さないという「無害でいる覚悟」のようなものを感じ、おじさんとしては見習いたところです。

喫煙者という「うしろめたさ」を共有する絆

 リアル世界では、喫煙所はどの施設でも隅に追いやられ、そして喫煙者は、どこかうしろめたさを感じながらタバコをくゆらしているものです。そこで出会うメンツは必然的に顔見知りとなり、会話を交わすことなどほぼないですが、どこか「悪いことをしている(ようにしむけられている)」気持ちも心の隅にあるため、仲間意識がわずかに生まれます。とはいえ、それ以上の関係になることはほぼ皆無です。

『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』を読むと、心のどこかでは佐々木と田山のように同性異性かかわらず、仲良くなれる「ヤニ友」を欲している自分に気づきます。マンガの今後の展開はわかりませんが、いつかスーパー裏を飛び出して違うタバコが吸える場所へ……などという妄想を掻き立ててしまいます。そして、ふたりの関係を自分のタバコライフにも重ね合わせロマンを抱き、今日もタバコに火をつけるのです。

(南城与右衛門)

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