ウルトラマンは一度も「シュワッチ」と言ってない? 独特過ぎる「かけ声」が誕生したワケ
マグミクス / 2024年10月8日 19時55分
■「シュワッチ」ではなく「SHWACH」……で、なんと読むのか?
ウルトラマンといえば、「シュワッチ」です。
「ヘア!」や「ダア!」もよく言っている気もしますが、ひとつ選ぶならば「シュワッチ」なのです。今思えば、あまりにも独特な「シュワッチ」というかけ声は、果たしてどのようにして生まれたのでしょうか。また、そもそも誰の声なのでしょうか。
こうした「シュワッチ」への疑問に真正面から向き合った書籍があります。河崎実さんによる快著『ウルトラマンはなぜシュワッチ!と叫ぶのか?』(メディアワークス )。河崎実さんといえば『いかレスラー』『大怪獣モノ』など話題作を多く手がけた映画監督であり、特撮関連本を何冊も執筆されてきた業界随一の特撮オタクでもあります。同書を道標とし、「シュワッチ」の謎を紐解いていきましょう。
まず「シュワッチ」はどのようにして誕生したのか、という疑問から入るべきなのかもしれませんが、同書ではいきなり強烈な結論を叩きつけてきます。いわく「ウルトラマンは『シュワッチ』とは言っていない!」とのこと。……これはどういうことなのでしょうか。
大前提、『ウルトラマン』の台本に「シュワッチ」というセリフがあったわけではありません。このかけ声はウルトラマンの生みの親である飯島敏宏監督が試行錯誤の末に作り出したものでした。
飯島監督は新たなヒーローの声を考える際にまず、ご自身が慣れ親しんだアメコミの擬音表現、「GWAAAOR!」「ZHWAAA……」を参考にします。そのなかで目に留まったのが「SHW AA……」という叫び。日本語だと「シュワー」と発音できるものです。さらに迫力を加えるために「CH」をくっつけ、独自の「SHWACH」というかけ声にたどり着いたのです。ここまで簡単に書きましたが正直、天才的な感覚としかいいようがありません。
さて、この「SHWACH」は「シュワッチ」と発音できそうではありますが、『ウルトラマン』劇中での発音は「シュワッチュ」あるいは「シュワッキュ」だったのです。
例えば第10話「謎の恐竜基地」において、初めてウルトラマンは怪獣ジラースとの格闘中に「シュワッチ」と思しき声を発しますが、これも厳密にいえば(あるいは、河崎実さんが断定するところ)「シュワッチュ」なのでした。
■「声」を担当したのは誰?
「初代ウルトラマン55周年記念 2021年カレンダー」(TRY-X)
ところで、この声を担当したのはどなただったのでしょうか。例えばウルトラマンの「中の人」であった古谷敏さんかといえば、違います。「シュワッチ」の声の主は中曽根雅夫さんという俳優でした。低くドスの利いた声が特徴で、飯島敏宏監督の作品の常連でした。
飯島監督は、録音の際に中曽根さんに機材を入れたグランドピアノのなかに頭を入れて叫ぶよう指示していたという証言も残っています。あの独特のエコーは、こうした工夫によって生み出されていたのでした。TV特撮黎明期における泥臭くも美しい風景です。
さて「シュワッチ」の主である中曽根雅夫さんはその後、不遇の時代を経て俳優の仕事を廃業。職を転々とされたのち、1993年にご自宅アパートにて亡くなられたのでした。誰もが知るあの声を担当された人であるのに、あまりにも寂しい最期ではなかったでしょうか。
話は「シュワッチ」に戻ります。『ウルトラマン』のなかで一度も「シュワッチ」と言っていないのであれば、どうしてこんなにも世に浸透しているのでしょうか。
『ウルトラマン』の「シュワッチ」を活字で最初に表現した人として有力とされるのが、漫画家の赤塚不二夫先生です。1967年4月9日発行号「少年マガジン」に掲載された『天才バカボン』にて、バカボンのパパが腕をクロスさせて「シュワッチ」と叫ぶコマがあります。多くの読者が「シュワッチ」という活字表現に目を触れたことになり、「シュワッチ」という言葉が浸透したきっかけであることは間違いなさそうです。
なお、『ウルトラマンはなぜシュワッチ!と叫ぶのか?』では、初めて「シュワッチ」が活字にされた作品として、1968年に「少年ジャンプ」に掲載された『ウルトラセブン』のパロディマンガ『ウスラセブン』(作:永井豪)を挙げていますが、のちに著者の河崎実さんはこれを訂正しています。
ここまで「シュワッチ」の関する疑問を紐解いてきました。私たちの知るウルトラマンの声の主が不遇の生涯を送ったという事実は、胸にずしりときます。この事実と向き合わせてくれた河崎実さん、そして著書に改めて感謝と敬意を表します。
※本文の一部を修正しました。(2024.10.9 15:00)
(片野)
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