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女性と男性で能力の差はないけれど? アニメの「シナリオ打合せ」で求められるスキル【この業界の片隅で】

マグミクス / 2020年4月16日 12時10分

女性と男性で能力の差はないけれど? アニメの「シナリオ打合せ」で求められるスキル【この業界の片隅で】

■創造性や技術に性差はないものの…

「この手の作品は男性じゃないと書けない」「このジャンルは女性の方がうまい」という固定観念は、大きな声で言う人は少なくなったものの、いまだに根強く残っています。ですが、年々薄れつつはあるようです。

 実際、表現の得手不得手に、性差はほとんどないと言って良いでしょう。大ヒット少年マンガ『鋼の錬金術師』の荒川弘先生が女性であることは、よく知られた話です。とかく「男にばかり都合の良い美少女動物園」などと陰口を叩かれる「まんがタイムきらら」の連載作家も、女性の方が多いと聞きます。男性向け成人マンガの作家も、半数近くが女性であるとも言われています。逆もまたしかりで、いわゆる女性向けコンテンツの世界で活躍する男性も多数存在します。

 要するに、そのジャンルを愛してさえいれば、男性だろうが女性だろうが、クリエイティブに性別は関係ないのです。ただ、それでも「もしかすると女性の方が向いているかも」と感じる分野があります。それがシナリオです。男性よりも女性の書くシナリオの方が優れていると言うつもりはありませんし、そんな事実もありません。

 問題にしたいのは、「本読み」とも呼ばれるシナリオ打ち合わせについてです。30分アニメの場合、状況によって差異は大きいものの、1回の本読みに要する時間は2~3時間といったところでしょう。この2~3時間の打ち合わせを、感情的な軋轢を最小限に抑えつつ、同じメンバーと何度も繰り返し行う必要があります。そのための協調性は、男性よりも女性の方が、幼い頃から培われているように思うのです。

 クリエイターとしての自己主張やこだわりは何より大切なもので、それがなければ、アニメのような集団作業での創作は、妥協に妥協を重ねた産物に成り果ててしまいます。それでも、ベストの形で妥協するための協調性は必要です。会議メンバーの主張に丁寧に耳を傾けてそれを創作物に反映させたり、納期を守ったり必要な連絡を絶やさないことも含めた「ちゃんとしていること」は、創造性や技術と同じくらい求められる能力なのです。ある種の才能と言っていいのかもしれません。

 この才能を育む文化的な土壌が、女性社会に強くあるのではないかと、シナリオ打ち合わせに出席していると感じることが多いというわけです。それが良いことなのか悪いことなのか、私には分かりませんが。

■本読みで感情的な軋轢を起こす二大要因とは?

シナリオライターへの指示は具体的に(画像:写真AC)

 本読みで感情的な軋轢を起こす要因は、経験上、大きくふたつあるように思います。ひとつめは、「単なる感想で批判を行うこと」です。

 例えば、必死に書き上げた原稿に対して、「何かつまんないんだよなあ、ちょっとダメなんじゃない?」と言われたらどう感じるでしょう。「何かって具体的に何だよ。そんなにダメだと思うなら自分で書いてみろよ」と、カチンとくる人がいても、おかしくはありません。内心では頭にきても顔に出さないのが協調性なのかもしれませんが、寛容さを一方的に求めるのは人としてどうかしています。

 それに、なるべく具体性のある指摘や要望でなければ、どこをどう直していいものやら、ライターは見当もつきません。それでも何とか改稿してきた原稿に対して同じことを言われたら、もうほとんどお手上げ状態です。無駄な打ち合わせを重ねた挙げ句、制作スケジュールを逼迫させる原因にもなりかねません。

 ふたつめは、本読みでも中心人物となる監督に、「具体的にやりたいことが存在しないこと」です。シナリオライターの上げてきた脚本について、監督の意向や要望を基準に、参加メンバー全員で検討を行うのが本読みです。肝心の意向や要望が存在しない、あるいははっきりしないのは、羅針盤なしで航海を行うのと同じで、制作チームという名の船が、決定稿を目指す大海原で、とめどなく迷走してしまうことになります。

 自分はどんな作品を作りたいのだという唯一無二かつ強烈なビジョンを、可能な限り具体的に自分以外の人に示して分かってもらえること。それこそが、監督というポジションに求められる、最大の資質ではないかと思います。私の知る限り、優れた監督ほど「自分はこういう理由でこうしたいから」「この部分を」「このようにできないだろうか」と、根拠に基づいた論理的な話し方をします。そして、売れっ子のライターほど、「ちゃんとしたやり方で」それに応えようとします。

「狂気と紙一重の巨匠伝説」のようなものは、万人の好むところで、アニメ業界人についても数々の伝説が語られています。けれど、その半分くらいが作り話だろうと考えています。決して名前は出せませんが、とある大物クリエイターの方は、作品知名度を上げるために、あえてメディアと共犯者になって自分についての伝説を作り上げたそうです。

「ちゃんとしていること」は、他の業種と同じように、アニメ作りでもとても大切なのです。

(おふとん犬)

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