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曽田正人氏の代表作『昴』 悲劇の天才が魅せる、感受性ゆさぶるバレエ物語

マグミクス / 2020年6月7日 15時30分

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■繊細な感情表現とダイナミックな描画

 小学館「ビッグコミックスピリッツ」で2000年代初めに連載された『昴』(すばる)は、バレエマンガの名作として多くの読者に支持されました。2020年5月下旬、作者の曽田正人氏の代表作が一部無料で読めるキャンペーンが実施され、この機会に初めて作品に触れた人も少なくないのではないでしょうか。

 小学3年生の少女・すばるには、双子の弟・和馬がいました。すばると和馬の誕生日、クラスメイトの真奈たちは和馬(そしてすばる)を祝いたいと伝えます。入院している和馬に皆を会わせたくないと渋るすばる。それでも病室を訪れた真奈たちをむかえたのは、言葉をほとんど理解できなくなった和馬でした。

 脳にできた腫瘍が原因で、記憶障害を起こしていた和馬。うつろな表情のまま、病室のなかで生きる和馬。すばるは身振り手振りを使って、舞い踊るように和馬にその日の出来事を伝えようとします。すばるのことがあまり好きではない真奈は、偶然にもその様子を見てしまいます。むちゃくちゃだけれど懸命なすばるの姿に、彼女は不思議な高揚感を覚えていました。

 そんな真奈は、自分の母親が営むバレエ教室に、すばるを誘います。病室ではなく広々としたスタジオで踊ったすばるは、今まで感じたことのない興奮や喜びを感じていました。その時彼女は、生まれてはじめて弟のためではなく、「自分のため」に踊っていたのです。

 喜びや怒り、戸惑いや悲しみを、繊細かつ大胆に描く曽田先生。第1巻の冒頭から、すばるは命を燃やすようにさまざまな感情を見せてきます。弟のため、懸命に生きてきた彼女。その弟を忘れて舞い踊ったとき、彼女は歓喜と同時に罪悪感にも芽生えます。そんな彼女の才能に、嫉妬と尊敬を同時に抱いて戸惑う真奈。ふたりの少女の感情の揺れ動きに、気づけない母親たち。

 曽田先生のマンガは、登場人物それぞれの立場が非常にわかりやすいため、違和感なくそれぞれのキャラクターに感情移入できます。ときにスピーディなストーリー展開は、物語上あまり重要ではないキャラクターをすぐおきざりにしてしまうことも。ですが、その明快によって、主人公を中心とした人物たちにフォーカスしやすくなるのです。

 家族に対する複雑な思いと、自分の中にあった踊りを強烈に熱望する思い。天性の才能と、物言わぬ観客だった弟によって鍛えられた表現力。すばるは自身のあらゆる境遇を飲み込むように、自分の欲求を吐き出すような物語を突き進みます。

 このタイミングで、再びこの作品を手に取ることができて、本当によかったと思える作品です。キャンペーンは終了してしまいましたが、読んだことのある方もない方も、ぜひ一度手にとってみてください。

(サトートモロー)

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