今まさに共感? 原哲夫氏の漫画『中坊林太郎』、カネと不正に染まる権力者を豪快に裁く
マグミクス / 2020年6月14日 19時10分
■魑魅魍魎のような「巨悪」たちが物語をより濃厚に?
「公権力を乱用し血税を蝕む権力亡者たち…。国家の中枢に巣食うそんな巨悪たちを、絶大なる権限を持って処罰できる男がいた──」
集英社「SUPERプレイボーイCOMICS」の第2巻、表紙カバーの折り込み部分に冒頭のような一文が書かれた痛快なハードボイルド・ストーリー……それが、今回紹介させていただくマンガ『公権力横領捜査官 中坊林太郎』(以下、『中坊』)です。
作者は『北斗の拳』の作画や『花の慶次』、『蒼天の拳』で知られる原哲夫氏。一連の作品から骨太な物語を描くことで知られる同氏ですが、その中でもこの『中坊』は、(繰り返しになってしまいますが)かなり痛快かつ豪快なストーリーが展開される作品となっています。その内容は、ともすれば集英社発行の男性向けビジュアル誌「BART3230』での連載期間、1998~2000年当時よりも、今の時代こそ共感を覚える方が多いかもしれません。
物語は、「諸外国からの圧力により成立された時限立法によって設置された公権力横領取締室』の捜査官、中坊林太郎の活躍を描いたもの。巨大メガバンクの「東西銀行」を舞台に、主人公の中坊が行員の「林太郎」として潜入捜査を開始し、さまざまな巨悪たちを相手に闘いを繰り広げていきます。
政治家たちの不正融資の温床となる銀行と、そこに相談役とおさまる元「日銀」理事の三島や「大蔵省」出身の頭取である長谷川。そして銀行の不正融資を利用し、私腹を肥やす政治家である「民自党」の元副総裁・松丸稲次郎や、地元「G県」の総合開発リゾートを通して私腹を肥やす元・大蔵大臣の大河原慶介、それら悪事の実行部隊である「末野松不動産」の末野松政次郎、武闘派談合屋「業田開発」の業田竜彦など、魑魅魍魎のような人物たちが暗躍し、「味濃いめ・油多め」なストーリーが展開されます。
そして、その「悪」たちがそれぞれ「悪」として徹底しているからこそ、中坊によってやりこめられた際の描写が痛快極まりないものとなっています。悪の限りを尽くした者たちが最期に迎える哀愁ある姿も見ものです。
■報酬は没収財産の1割、驚異の「歩合制」
『公権力横領捜査官 中坊林太郎』第2巻(コアコミックス)。表紙では葉巻に豪快に火を付ける中坊が描かれる
主人公・中坊が所属する『公権力横領捜査室(通称:MEA)』とは、「国会議員、地方議会議員及び公務員等による公権力の不正利用を捜査・処罰するための組織』であり、その最大の権限は「財産没収権」。劇中の中坊の言葉によると「俺の報酬は公権力横領罪で悪党から没収した財産の10%」とのことで、「1兆なら1千億! ぬるま湯に浸かったお役所仕事とは一緒にすんなっ!」とも語ります。
そのように「政治家が公権力を乱用し不正にため込んだ汚い金を押収する」という任務の達成度によって報酬を得るという、完全な歩合制です。また中坊は悪徳政治家たちに対して「ああいう連中が一番こたえるのはカネと権力を剥ぎ取られることだ」とも語ります。恐ろしや「公権力横領罪法」です。
またこのMEAは超法規的な機関ゆえ、先の「財産没収権」だけでなく、「強制捜査権」や「司法取引」、「証人保護プログラム」などが許可されており、まさに悪徳政治家にとっては最強にして最悪の捜査機関。普段の中坊は気弱な行員の「林」を演じているのですが、毎回、毎回、悪党どもが「親」の話を出した途端、態度が豹変。「ぶかぁ~」と葉巻をくゆらし、「親は関係ねえだろ親は…俺の前で親の話はよしてもらおうか!」という決め台詞を吐き捨て、問題を一気に解決していきます。ここらあたりは、水戸黄門の印籠と同じパターンと思っていただければ間違いないと思います。
今、現実の世界でたとえばこの「公権力横領取締室」が実際に設立されたら、何やらとんでもないことが起こりそうな予感もしますが、それはそれ。トンネル会社を使った政治家の横領や公権力の乱用、公的資金での救済を当て込んだ「天下り組」による銀行の乱脈経営などは、やはりマンガの世界の中だけのフィクションのおハナシと思いたいものです。
(渡辺まこと)
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