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のむらしんぼ『コロコロ創刊伝説』 子供たちのバイブルの裏にあった、壮絶エピソード

マグミクス / 2020年11月27日 7時10分

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■のむらしんぼ先生は還暦を過ぎた現在も健在

 のむらしんぼ先生の名前を聞いて、「ああ!」と思い出せる方は、おそらく1980年代から90年代にかけて「月刊コロコロコミック」(以下、コロコロ)を読んでいた方でしょう。子供たちを悩ませるテストや受験をエンタメに昇華した『とどろけ!一番』やTVアニメ化も果たした『つるピカハゲ丸』などのヒットを飛ばしたのむら先生ですが、60歳を超えた今なお現役の漫画家として活躍を続けており、2020年現在は「コロコロ」の大人版「コロコロアニキ」で『コロコロ創刊伝説』を連載中です。

『コロコロ創刊伝説』は1977年の「コロコロ」創刊当時から1990年代にかけて起こったさまざまな出来事について当時の関係者に伺いつつ、のむら先生の回想という形で描かれた作品で、当時人気を博していたコロコロ作品にまつわる創作秘話がたっぷりと盛り込まれています。また、一時は栄華を極めたのむら先生自身の転落エピソードなど重い話題も描かれており、バブル時代に億の単位のお金を稼ぎだしながらも、気づけば借金漬けという厳しい状況に置かれていることすらネタにしています。離婚の際に妻から「あなたマンガと心中したいんでしょ。その望みを叶えてあげます」と言われたエピソードまで明かされていますが、当初のむら先生は自身の苦境を描くのは抵抗があったそうです。しかし編集者の方々の説得により描かれた結果、本作はただの過去を懐かしがるマンガではなく、漫画家という特殊な職業に就いた人間が送る人生の毀誉褒貶(きよほうへん)を描いた文学ともなっていることが、作品としての読みごたえを増しているように思えるのです。

 また、マンガ製作においては普段裏方に徹することが多い編集者の方々のエピソードが熱く語られていることも、本作の大きな特徴です。

 創刊時の編集部は初代編集長の故・千葉和治(ちば・かずはる)氏と、のむら先生の初代担当編集者である平山隆(ひらやま・たかし)氏のふたりしかおらず、社内の協力者はゼロ。漫画家を集めるのも一苦労で、他の編集部の新人賞に送られてきた没原稿からめぼしい人材を発掘するところからスタートしています。漫画家・島本和彦先生の自伝的作品『アオイホノオ』でもほぼ同様のエピソードが語られており、1980年代の新人漫画家はどのように発掘されていたのかを伺い知ることができます。

■「コロコロ」命名の由来とは?

 もちろん、『コロコロ創刊伝説』には「コロコロ」を彩った数多くの漫画家も多数登場し、当時のエピソードを明かしてくれています。

『ゲームセンターあらし』のすがやみつる先生や、『あまいぞ!男吾』のMoo.念平先生など多くの先生方の創作秘話も明かされていますが、これらの回でも編集者が大きくクローズアップされており、マンガ製作とは漫画家と編集者の共同作業であることが力強く語られているのです。

 すでに亡くなられた方の思い出を語る回や、漫画家の方々が協力して作品作りにあたっていたことなど、当事者でしか知り得ない情報も満載です。創刊から大きく成長を遂げるに至った「コロコロ」に込められた熱量のすさまじさを知るには、本作以上の作品は現状存在しないでしょう。

 また、特に印象深かったのが、「コロコロ」の名前にまつわるエピソードです。子供の人生は長く、何度も何度もつまずきそのたびに起き上がる人生を送るはず。そんな子供たちを励ますために新たな子供向け雑誌を「コロコロコミック」と名付けたのだそうです。道路で転んでも、社会で転んでも、人生で転んでも、なお立ち上がって歩き出す。「コロコロ」にはそのような意味が込められていたのです。

 本作には一度転んでしまいながらも、再び立ち上がった方のエピソードも掲載されています。1994年から2006年にかけて連載された『星のカービィ デデデでプププなものがたり』の作者であるひかわ博一先生はのむら先生のアシスタントを務めていた際に声がかかり連載作家となりましたが、途中からマンガへの情熱が消滅してしまい、まったく描けない状況に陥っていました。実質アシスタントがひとりで描く状況になっていたのですが、その方も辞めてしまい、連載を終了することになってしまったのです。これらの経緯は「ゲッサン」で連載されていたカメントツ先生の『カメントツの漫画ならず道』で明かされていましたが、ラストは決して明るい未来を暗示するものではありませんでした。しかし本作では、ひかわ先生が再び漫画家として活動を始めたことも描かれており、師匠であるのむら先生との対談も掲載されています。

 どれほど人生で「コロコロ」しても、またやり直せばいいじゃないか。本作からはそんな優しさと強さが伝わってくるのです。

(ライター 早川清一朗)

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