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手塚治虫の伝説的医療漫画「きりひと讃歌」オリジナル版が発売、扉絵など連載時のまま復刻、単行本との違い

よろず~ニュース / 2024年4月20日 15時0分

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「ビッグコミック」連載当時の「きりひと讃歌」扉絵の原画。半世紀以上の時を超え、新刊の「オリジナル版」に収録された(C)手塚プロダクション

 「マンガの神様」と称される手塚治虫(1928-89)の作品は、雑誌連載当時のバージョンと単行本版が「描き換え」や「再編集」によって中身が異なっていることでも知られている。その代表作の一つで、週刊漫画誌に掲載された初出状態で単行本化された「きりひと讃歌 オリジナル版」(立東舎)が19日に発売された。画期的な書籍の出版を踏まえ、貴重な原稿や資料を保管している「手塚プロダクション」(以下・手塚プロ)の資料室(埼玉県)に足を運び、現場スタッフに話を聞いた。(文中一部敬称略)

 「きりひと讃歌」は「ビッグコミック」(小学館)1970年4月10日号から71年12月25日号まで連載。73年から週刊少年チャンピオン(秋田書店)で連載が始まった「ブラック・ジャック」に先立つ〝医療漫画の金字塔〟と評されている。

 壮大なドラマだ。主人公である青年医師・小山内桐人(きりひと)が「モンモウ病」(顔が犬のような風貌になる病)の研究で赴任した四国の山中にある村で自身も発症し、運命に導かれて台湾や中東などを流浪する中、医学の在り方や人間の尊厳と向き合う姿などを描く。医学界の権力争い、人の容貌に対する差別や偏見も描かれ、登場する女性たちの存在も魅力的。様々な登場人物のストーリーが重層的に絡み合いながら展開される。

 同作は連載終了後の72年に単行本(全2巻)が刊行後、何度も再版されてきた。雑誌連載と単行本では、どういった点が変わってくるのか。

 手塚プロ資料開発部参与の田中創氏は「一冊のまとまった作品として再構成するため、コマの順番やネーム(台詞)を変えています。その中でカットされたコマもあります」と〝作家としてのこだわり〟の部分を挙げた、さらに、同氏は「(単行本としての)ページ数の都合などもあります。また、雑誌連載時は各回にタイトルが記された『扉絵』がありましたが、それらは単行本には入りませんでした」と物理的な側面も説明。「きりひと讃歌」が単行本化に際して未収録となった分量について、田中氏は「12枚(ページ)プラス5コマ。扉絵は50枚弱ですね」と補足した。

 本書の企画・構成を担当したアンソロジスト(編集者、ライター)の濱田髙志氏は「単行本は『ディレクターズカット』で、雑誌連載はオリジナルです。50年以上前の作品ですが、医学界、政治関係、現在の国際情勢、さらにはルッキズム(外見差別)の問題まで予見していた」と解説。桐人は中東の難民居住区で医師として生きる意味を見いだし、同僚の医師・占部が赴任する南アフリカではアバルトヘイト(人種隔離政策)の描写もあるなど、国際的な視野にも貫かれている。

 新刊はビジュアル面でも目を引く。2色刷りに加え、単行本用に描き下ろされたカラー挿画も掲載。田中氏は「紙がきれいですね。じっくり読める楽しみがある」と評し、内容については「当時の劇画調、大人向けの画風に挑戦したのが今作でした。『人間テンプラ』のシーンはトラウマになったという読者の話はよく聞きます」と付け加えた。「人間テンプラ」とは、台湾で見世物にされた桐人を救い出した女性芸人・麗花の得意技。アクロバティックに丸めた全身をテンプラの衣で包んだ状態で油の中に投入され、15秒後に引き揚げられて生還するというショーだ。この芸を桐人との逃亡資金稼ぎのために中東の街で披露したものの、失敗して真っ黒な「衣の塊」となる場面だった。

 また、田中氏は「手塚本人もインターン時代に『最後にくっ付いて歩いていた』という文章があります」と指摘。手塚は母校(当時は大阪帝国大学附属医学専門部)をイメージした「大阪・M大学医学部」を舞台に、医長を先頭に何十人ものお供が付く回診の場面を「大名行列」と称した。また、作中で桐人が行う手術など医療行為で詳細にその過程が描かれるなど、医師でもある自身の知識や体験が活かされている。

 手塚は89年2月に60歳で死去。35年の月日が流れた今、多くの読者にとっては単行本で接する巨匠であり、リアルタイムで連載を読んだ人たちは中高年以上になっている。巻末に特別寄稿した詩人・小説家の最果(さいはて)タヒ氏は後追い世代として、〝完成品〟である単行本に対して、連載漫画は〝先が見えない未完成品〟であり、「物語と読者が同じ時間を共有する」という当時の醍醐味を本書で追体験できることを指摘した。

 雑誌連載では各回ラストにインパクトのある内容と絵が提示されて「翌週も買って読みたい」という気にさせる。その〝ワクワク感〟が本書で味わえる。また、単行本では不必要なためカットされた「前週までのあらすじ」のページも復活した。田中氏は「単行本と読み比べることで違いを楽しめると思います」と語った。

 昨年、単行本未収録回をよみがえらせた「ミッドナイト ロストエピソード」や「ブラック・ジャック ミッシング・ピーシズ」などに続く手塚復刻本を世に出した立東舎編集部は「文学・映画・漫画作品は時代や状況によって変化が強いられるものではありますが、オリジナルとしての原形も常に参照できる、それが理想的な形だといえるでしょう」と、こだわりを示した。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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